横須賀ぷらから通信は「【プラ】ス1時間ここ【から】歩く」をテーマにしたお散歩メディアです。

【特別対談・後編】ぷらから・赤星友香×ヨソモノ・木内アキ「横須賀を書いて伝える、ということ。

ZINE『ヨソモノ』の発刊に寄せて、『横須賀ぷらから通信』 主宰の赤星友香さんと、『ヨソモノ』の編集・発行人の木内アキさんによる、観光とはひと味違う「いつもの、横須賀を書く」をテーマとした対談を前・後編でお届けしています。今回の後編では、言語化しにくい横須賀の魅力について掘り下げるのとともに、ふたりがいま関心を寄せているテーマについて語り合いました。

『横須賀ぷらから通信』と『ヨソモノ』、ウェブと本、形は違えど、横須賀をテーマにしている「読むメディア」という共通点が。

対談者プロフィール

赤星友香(あかほし・ともか)
『横須賀ぷらから通信』主宰。piggiesagogo クロシェター/ライター。東京・国立市で生まれ、5歳のときに横須賀に引越す。大学時代にまちづくり団体に所属し、横須賀市制100周年と連動したイベントなどにも関わる。茨城県・つくば市在住となった現在も、定期的に横須賀を訪問し、記事執筆に勤しむ。

木内アキ(きうち・あき)
文筆レーベル『ヨソモノ』主宰。フリーライター。北海道・旭川市で生まれ、大学入学を機に上京。東京生活を経て、2018年に横須賀に移住。雑誌や書籍、ウェブでの取材・執筆活動を続けながら、2024年4月に「ソトから見た横須賀」をテーマにしたインディペンデント文芸ZINE『ヨソモノ』を発刊。

それぞれが「自分の中にある大切な横須賀」を考えるきっかけに

木内:前回「『ぷらから』らしい記事」について伺いましたが、次に赤星さんが「『ヨソモノ』らしいな」と思った記事についても伺っていいですか?

赤星:西村依莉さんの『私の中のかわいいヨコスカ』というエッセイです。
文中では彼女の心に残った市内の建物がいくつか紹介されていますが、その中に衣笠の『西友』にある階段が出てきていたじゃないですか。
あれって「いいよね」って思える人と「なんで?」っていう人が分かれると思うんです。
というのも「なぜあの階段がいいのか」の裏側には、専門的とまではいかなくても建築様式に対するある程度の教養とか、世の中の変化を経てああいう階段が残ってきたことに対する評価がある。
そういうところが、地元の人にとっては「ヨソモノに普段と違うことを言われてる」感じがするんじゃないかな、と。

高度経済成長期の建物に詳しい編集者の西村依莉さんによるエッセイの中では、西友衣笠店にある階段の可愛らしさについて書かれている

木内:同じエッセイの中に横須賀中央の新共薬局ビルも出てきます。
あのデザインは私も好きなので以前スマホで写真を撮っていたら、「あなた何を撮ってるの?」と道行くマダムに話しかけられたことがありました。
「あのビルのデザインがすごく可愛いので」と答えたところ、「何十年もこの近くに住んでるけど、考えたこともなかったわ!」とびっくりされていて。
面白い建物がたくさんある街なんですけどね。

赤星:あと、女性の執筆者が多いのもいいなと思いました。
サブカルチャー方面の企画をやろうとすると、どうしても男性執筆者が多くなりやすいでしょう。
横須賀の酒場でめちゃめちゃ飲んじゃった、と女性が楽しそうに言ってるのが、私の肌感覚的にすごくしっくりくる感じ(笑)。

木内:食通の編集者・森本亮子さんのエッセイ『横須賀には “家に帰りたくなくなる魔物” がいる』ですね(笑)。
実は『ヨソモノ』参加メンバーの男女比は、意識的に半々にしているんです。
それについては誰にも話したことがないので、赤星さんが気づいてくれたのが嬉しいし、なんだか報われた気持ちです。

『ヨソモノ』の目次ページより。制作スタッフも含め、男女比がほぼ半々であることにも注目していた編集長の赤星さん

赤星:インタビューページに登場する古書店『AMIS』の稲葉さんや、カフェバー『RRROOM』の鈴木夫妻など、お店の店主さんたちってキャラクターが個性的な人たちが多いから、彼らがどういう成り行きで横須賀に来たか、どういう成り行きで出ていったか、みたいなことも印象に残りました。

木内:「ずっといる」人が多い街なので、「入ってくる・出て行く」とかソトと接続する動きを伴ってこの街と関わる人の視点や人生に触れることで「横須賀って何なんだろう」みたいなものが浮かび上がるんじゃないか、みたいな試みではあったんですよ。

赤星:どれも横須賀の中の話なので、地元の人にとっては知ってることが書いてある。
けど読んでみると「私の知ってる横須賀」じゃないものが見えてくる気がしてすごくいいな、と思ったんですよね。
心象風景として違うものが見えそう、というか。

木内:長年住んでいる人にとって、目新しい情報はそんなにない本だと思うんです。
でも、それをあらためてヨソモノがなぞり、ソトから見た言葉で言われることによって「そうだな」とか「そうなんだ」とか、もちろん「そう思わない」でもいいんですけど、自分が持っていた感覚と照らし合わせて再確認できる。
そうやって各々の中にある横須賀の姿とか、大切にしている価値観みたいなものを見つける、そのための石をこの本を通じて投げてみたい、と思ったのはあります。

あたりまえの日常が「揺さぶられる」街として

木内:観光地ではない「くらす場所」としての横須賀の魅力、赤星さんはどんなところだと感じていますか?

赤星:私が育ってきた時代は、米軍基地とか海軍の歴史はまだ「負の遺産」というイメージで、もっと触れづらいものだったような記憶があるんですよね。
だから汐入に『EMクラブ』を残さなかったというか、残したくなかったみたいな当時の感覚も、なんとなく理解できる気がして。
それらをプラスに転じられるようになったのは、時間の経過が大きいのでしょうし、あのぐらい「観光地」に振り切ってしまうほうが変に隠そうとするよりもいいな、と思う気持ちもあります。

木内:横須賀の歩みとは切っても切り離せない部分ですものね。

赤星:ただ、いくら観光地化したといっても、生活の中のいつでも目につくところに軍港があった、というのはその通りなんですよ。
だから目の前に潜水艦が停まっているとか、ハッとする瞬間も多くて。
自分が当然だと思っていることを、軽く揺さぶられる経験をすることが横須賀でくらしていると割に多くて、私はそこが好きなんじゃないかな。

木内:『ヴェルニー公園』のあたりに軍艦がズラッと停まっている風景はいまだにギョッとします。

公園のベンチから、米軍や海上自衛隊の艦船が停泊する姿が見えるのも、横須賀の「日常風景」のひとつかもしれない。写真:横須賀メディアライブラリーより

赤星:あと、ものすごい崖の上にいつの間にか家ができてて、「あんなところにも家建てられるんだ!」みたいなのとか(笑)。

木内:細くうねりながらどこまでも続いていく急な階段とか、秘密基地みたいな切り立つ擁壁とかね(笑)。
街に慣れていないヨソモノの私にとっては、ハッとする風景だらけで、歩いていて飽きません。

赤星:人によっては、そうやって日常を揺さぶられることってすごく不快なことかもしれない。
でも「揺さぶられることの面白さ」みたいなものは『ぷらから』でも頑張って伝えたいんですよね。

急な階段と擁壁のセット、これも横須賀らしさ。

木内:「揺さぶられること」で言えば、私にとって東京での「都会ぐらし」は忙しいけどシンプルでもあったんです。
仕事で成功することがある種の正義、みたいな価値観が太く流れており、そこでの楽しみといえばだいたいお金を使うことに直結しているので、一生懸命に働いておいしいものを食べたり、ステキなものを買ったりしていればそれなりに楽しく生きていられる。
でも、たかだか都心から1時間弱の横須賀にくらし始めただけで、いきなり日本が抱えているありとあらゆる課題の当事者になるんですよ。

赤星:たしかに。
人口減少、少子高齢化、基地もありますしね。

木内:港には原子力空母が来ていて、火力発電所もあるし、少年院や刑務所も。
私たちの毎日はこういうものの上に成り立っているんだよね、みたいなものが横須賀に来たことでグッとリアルに感じられるし、すべて他人事ではなくなる。
知って楽しいことではないかもしれないですけど、そんなものは存在しないかのように生きていくより、自分ごととして感じ、考えられるっていうのは「良さ」じゃないか、と思うんです。
横須賀で感じるある種のたくましさや、いろんなタイプの人がいるのに風通しが良くオープン、みたいな空気感は、赤星さんが言う「日常を揺さぶられる」中で醸成されてきたものなのかも、なんて想像も膨らみます。

多種多様な人を受け入れていく横須賀の面白さ

木内:これから『ぷらから』で取り上げていきたいテーマはありますか?

赤星:さっき話に出たジャズの記事のように、既に存在している研究結果や誰かが調べて書いた資料で横須賀~三浦にまつわるものは世の中にいっぱいあります。
それが人目につきにくいところに埋もれているのであれば、私なりの目線にはなりますが、改めてピックアップしてみんなの見えるところにアーカイブとして置いておきたい。
そういう「掘り出していく系」の記事は増やしていきたいです。

木内:リサーチ力と情報を整理するスキルがあったうえで、ある程度の土地勘があり、横須賀に愛情と敬意と興味を持っている人じゃないとできない……つまり、そういうテーマは赤星さんの真骨頂に思えますね!

赤星:『ヨソモノ』はまだ出たばかりではありますが、第2号をリリースする予定は?

木内:続けたいという構想はあります。
気になっている部分で言えば、市内の目抜き通りにタトゥースタジオがある、みたいな風景ですね。
そういう「異質さ」と扱われやすいものを排除せず、許容していく文化はものすごく魅力的だと思っています。

街の景色に溶け込むタトゥースタジオ

赤星:たしかに、横須賀ってそうなんですよね。
行政だけでも大学生向けの生活保護制度を作ったり、パートナーシップ制度を拡大してファミリーシップ制度にしたり。
歴代受け継がれている何かがあると思います。

木内:『ヨソモノ』の中でRRROOMの鈴木夫妻が「横須賀の魅力はごった煮文化」と言っていました。
おそらく多種多様な人が共存し、幸せに暮らせるように、という暗黙のバイブスがちゃんと流れている街じゃないか、とにらんでいるんです。
ともすると「不良性」とか「柄が悪い」みたいなレッテルを貼られやすいかもしれませんが、社会の分断化が進んで、やり直しのきかない時代と言われる中において、こういう懐の深さはひとつの価値だな、と私は感じています。
あとは、先ほど(対談・前編)赤星さんが「横須賀は日本にある小さな地方都市の大きい版」と言いましたが、横須賀の街を見つめて、人の営みが放つものを切り取っていくことは、横須賀に流れている空気を伝えることでもあるけれども、同時に大都市からは見えにくい「地方都市のくらし」を可視化することにもなるのでは、と。

読者の声が、メディアにとって明日のエネルギーに

木内:最後に、読者の方々に伝えたいことなどありますか?

赤星:「横須賀のこういうところに行って楽しかった」とか、SNSやメッセージで気軽に教えてほしいですね。
『ぷらから』で面白かった記事はもちろん、「何だかよく分からないけど、ここ記事にしてくれたら面白い気がする!」みたいな思いつきとか、ひらめきレベルでもいいのでお声を聞かせてもらえたら嬉しいです。

木内:横須賀が生まれ育った場所である人や、長く暮らしている人にとっては、ヨソモノが街についてあれこれ書くのはざわつく部分があると思うんです。
それを受け止めて「自由に書いて」と言ってくださる方々がいるのは、とてもありがたいと感じています。
ぜひこれからも温かく見守り、楽しんでもらえたら嬉しいですし、共感してもしなくても、SNSやメールで感想をお聞かせいただけたら励みになります!

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