横須賀に住み始めた「ヨソモノ」である筆者が、市内にある京浜急行の各駅で下車。「起点は駅」「行き先は決めない」をルールに、街を歩いて散策する『ヨソモノ駅前探訪記』。ヨソモノの目で眺めたとき、ヨコスカのどんな姿が見えてくるのでしょう。
「いつみ」でも「はやみ」でもなく「へみ」
さて、今回も「お久しぶりです」。京急の横須賀圏内・北から4番目の駅『逸見』駅までようやくたどり着いた当連載です(ペース遅すぎ)。しかしこの駅名 「へみ」って皆さんすぐ読めるのでしょうか? 私はこの字面に出会った当初、「いつみ」か「はやみ」だろうと思っておりました。でも「へみ」っていう響き、なんだかのほほんと可愛らしくて好きです。

降り立った逸見駅のホームは、横須賀名物と言っても良い「トンネル抜ければすぐ駅」なロケーション。

しかしトンネル周辺にある家々の高低差。集合写真を撮るときの「後ろの方~、前の人の間からお顔が見えるように並んでください~!」みたいに、各々がうまく隙間を狙って太陽のほうを向く、というか。中央の岩の上にある家の主人公感も気になります。

ホームから家を眺めているだけで楽しめちゃう性分のため、さっさと街歩きに移りましょう。各駅停車の駅だけあって、改札は小さめ。

私にとって逸見は、『ぷらから』の樽瀬川さんの記事『青い目のサムライ三浦按針をめぐる』で読んだ「逸見は唯一の、外国人が領主となった土地」という一節が印象深いのです。
「安針塚」の回でも、江戸幕府の外交顧問として徳川家康に仕えたイギリス人航海士、三浦按針(みうらあんじん)=ウィリアム・アダムスさんの存在に触れましたが、旗本となった彼に与えられた領地がこの逸見。どんな街なのでしょうか。
改札前の階段を降りると、レトロビルにある美容室がまず目に飛び込んできました。

ビル前の道は左右に分かれていますが、どちらを見ても静かな印象。うーむ、右に行くべきか左に行くべきか。毎度ながら、土地勘のない新参者は歩いて行く方向に迷います。
右に行くとすると(ベビーカーの方がいる方角)裏道に入って行くルートに。

左に行くと電車の高架があって、その下をクルマが行き来するのが見えます。大きめの通りがあるのでしょう。

周辺地図的なものも見当たらないし、さあて、どうしようかな。
迷ったら、メイン通りの「一本裏」の道へGO!
決めました。右の細い道に行ってみます(ええ、私は天邪鬼です)。だって、『カットハウスミフネ』の佇まいに惹かれたから。

本日はお休みなのでしょうか。理容店を表すトリコロールのサインポールがスリムでおしゃれなデザイン。
その先の角を曲がると……気になる店!『やきとり さくらい』!。


取材時はお昼時だったためクローズしていましたが、そっけない外観に手書き墨文字の掲示……いい店の予感。また夜に再訪してみたいものです。
さて、道はゆるやかにうねりながら先へと続いています。「まっすぐの道」が多い北海道生まれの私には、こういう「まっすぐじゃない道」も横須賀の風景に彩りを添える立役者に感じられます。


あ、赤い自販機のうしろに何かのお店が……。ここは、例の樽瀬川さんの記事にもあった『コロボックルの会』の施設!

コロ「ポ」ックルと言えばアイヌの民話に登場する、フキの下に住む心優しい小人のことですが、コロ「ボ」ックルは、逸見出身の児童文学作家・佐藤さとるさんの作品『コロボックル物語シリーズ』に登場する俊敏な小人たちのこと。
私も小学生の頃、第1作目の『だれも知らない小さな国』から始まるこのシリーズを夢中になって読んだものです。主人公の青年「せいたかさん」とコロボックルたちとの交流に憧れて、もしかするとこの部屋の片隅からコロボックルが見つめているかも……と探してみたこともありました(ピュア)。
平日のため閉まっていましたが、「土日祝以外に遠方からいらっしゃった方」向けの連絡先が記されているあたりが温かいです。
さて、道はまだ続きます。『東逸見2丁目公園』と『横須賀逸見郵便局』の前を通り過ぎます。


その先に、素敵な家具屋さん発見。『小林家具店』の看板の字体が個性的でおしゃれです。店頭表示を見る限りだと、家具の販売や修理などを手掛けているのでしょうか。

道の先に進むと、もう一軒『小林家具店』がありました。こちらはお店というより工房なのかしら。

建物の壁面に掲示板があって、美術展のポスターなどが貼ってあったのですが……その中に『按針新聞』なるものを発見!

発行は『三浦 按針の会』とあり、デザインも本格的です。大見出しに「家康と按針をモチーフにしたドラマ『SHOGUN 将軍』が大ヒット!」という文言が。
エミー賞ほか数々の栄誉ある賞をわんさか受賞したことでも話題になった、海外ドラマ『SHOGUN 将軍』。江戸時代の日本に漂着した英国人航海士ジョン・ブラックソーンが主人公ですが、彼のモデルが三浦按針です。そして真田広之さん演じる大名・吉井虎永のモデルが徳川家康。同作のヒットは、按針ゆかりの地として、さぞ嬉しいニュースだったことだろうと想像します。(子どもの頃、映画『里見八犬伝』で真田広之さんに恋した私も胸熱です)。
『逸見駅入口』交差点を経由し、反対側の裏通りへ
さて、道はうねりながら右に続いていますが、三叉路の正面に大通りが見えてきましたので、そちらに抜けてみます。

唐突に大きなビルがドーンと。こちらは『ウェルシティ横須賀 天空の街』(!)というマンションで、噂によると、横須賀初のタワマンなのだとか。
大通り自体は、道の拡張工事が行われているようで、道路際に車止めがずらりと並んでいます。キレイな歩道もできていますね。

途中、フェンスにこの道の完成予想図が貼り付けられていました。

反対側の道にも、ゆとりのある歩道が造られるようです。向かって右側はほぼ図のような歩道が完成していますが、左側の工事はこれからのご様子。
タワマンに向かって歩いて行くと……按針という会社を発見! ご領主様、愛されているなぁ。

『逸見駅入口』の交差点に出ました。ここで、横浜~首都圏とつながる横須賀の大動脈・国道16号とぶつかります。

交差点の反対側はタワマンのふもとになっており、『ウェルシティ市民プラザ』のオブジェがあります。ビルの下層階が市民プラザ部分で、検診センターや生涯学習センター、市民のための健康増進センター『すこやかん』などが入っています。

※後日調べてみたところ、設計を手掛けた『南條設計室』のウェブサイトに成り立ちが記されていました。タワマンとその周囲にある集合住宅、高齢者住宅、ナーシングホームといった居住施設と市の公益施設で『ウェルシティ』が構成されているようです。
タワマンの先はもう海なので、逸見方面に戻ることにします。歩いて来た道を後ろに振り返ってみると、車がずらり。平日の昼間にも関わらず、なかなかの交通量です。

実際、この界隈をほとんど歩いたことのない私も、車ではこの道を何度も通っています。というのは、繁華街である汐入~横須賀中央方面の混雑を避け、衣笠や葉山方面~横浜をつなぐルートだからです。道路を拡張しているのは、そういう理由もあるのでしょう。
大通りをこのまま駅方面に戻ることもできますが、せっかく裏道から始まった散歩です。次は大通りの反対側にある「一本裏」の道を歩いてみることにします。
裏道の入口にあたる『汀橋』交差点には、カナモノと看板が出ている『金杉商店』の建物が。

いいですねぇ、壁面にあしらわれたタイル絵。とても “金杉” 感があってシンボリック。このビルの脇を左折し、「一本裏」の道に入りましょう。
道沿いにはラーメン屋さんなど、ちょこちょことお店があるようです。


わ! プチ・ジャングルと言ってもいい緑モリモリのお店は……牛乳屋さん?

その先に『佐藤精肉店』というお肉屋さんがありました。


「100余年変えずに 炭焼きチャーシュー」の文言。これは心をつかまれます。
店内で尋ねてみると、件のチャーシューは「120年同じ炭火焼きの製法でつくっているんですよ」とのこと。それは食べてみたい。ショーウインドウに並んでいたシウマイもおいしそう。
「他に、この店に来たならこれを食べておくとよい、というものありますか?」と聞いてみると、自家製ラードで揚げた唐揚げがおすすめとのこと。チャーシュー、シウマイ、唐揚げを購入。いきなり荷物が増えましたが、気分はホクホク。
緑の装飾テントに赤の飾りが目を惹く『カワウチ時計店』の前を通り、そのまま直進します。

すると、目の前を京急電車が走り抜けていきました。右手には神社があります。


旧逸見村の鎮守であったという『鹿島神社』です。ここも樽瀬川さんの記事で「かつて三浦按針が住んでいたお屋敷があったと言われている」場所だと紹介されてた!
やばい……目的地を決めずに歩くのは良いですがルートがかぶっている……この状況を打破すべく、大通りのほうに戻ってみるかと神社の前を左折すると……建物の中から大きな木が生えているお店があるではありませんか! 近寄ってみましょう。

ここはっ! かの有名な『ダイヤスーパー 香取屋』!

居酒屋や酒場探訪で知られる文筆家の吉田 類さんのテレビ番組『吉田 類の酒場放浪記』でも取り上げられていた、酒場のあるスーパーマーケットです。これは入ってみないと。
中は地域密着のスーパーといった雰囲気ですが、特徴的なのは店の中央にお惣菜が大皿にずらりと並んでいること。その横にはオープンな厨房があって、お惣菜を作っている様子が見えます。


お店の方に聞くと、酒場のオープンは16時からとのこと。飲みたい人はお惣菜500円以上(取材時)と飲み物チケットを購入し、スーパーの横にある酒場に移動すると、社長が仕入れてくる自慢の日本酒を楽しめる仕組みなのだとか。
時計の針は15時過ぎ……ちょっと来るのが早すぎたか~! 残念ですが再訪を誓い、本日はおからとサバの味噌煮を買って帰ることにします。
着々と増える袋を片手に店を出て、入口横にある酒場ゾーンをチラ見。

たまらないですなぁ。これは、酒場&日本酒好きの知人を誘ったら喜びそう。
メインストリート『逸見中央商店街』をぷらり歩き
さて、そろそろ大通りのほうに出てみますか。『香取屋』を背に大通りの信号に向かって歩きます。

信号の向こうには、逸見駅を降りた際に前を通り過ぎてきた『横須賀逸見郵便局』が見えます。

この交差点の右手前に、「喫茶店」と呼ぶにふさわしい佇まいのお店を発見。

看板には『Re:San』とあります。(食べ物ばかり買っているものの)駅を降りてから空腹のまま歩いてきたので、遅めのランチタイムとさせていただくことにしましょう。

純喫茶らしい、レトロ可愛い内装に沸き立つ心……!もともとは70年代からこの地にある『コーヒーショップサン』という喫茶店を、現在のオーナーが引き継いで営業されているそうです。

純喫茶と言えば『ナポリタン』! 前回の安針塚でもたしかナポリタンを食べておりましたが、いいんです! ナポリタンは永遠なんです!

わぁ、銀皿だー! くし切りの玉ねぎがたっぷり、ウインナーもゴロゴロ。もちっと太めの麺にからみつくソースは、ケチャップたっぷりですが甘すぎないコクのあるお味。食後のアイスコーヒーまでしっかり楽しみました。
満腹になってしまいましたが、クリームソーダやパフェなどの甘み系喫茶メニューも揃っておりました。夜は違うオーナーさんが来て、バー的に営業もしているとのこと。先人のお店を大切にしつつ、若い方の感性で引き継いでいるのですね。
なんだろう、逸見。再訪したくなるお店がたくさんあります。
さて、充電完了。大通りはアーケードのある『逸見中央商店街』になっていますので、ぷらりと歩いてみます。

おっと、通り沿いに「卵屋さん」がありますね。珍しい!

『岩沢養鶏直売所』は、横須賀市林にある『岩沢ポートリー』の卵を週2回のみ販売しているとのこと。しかも、1個から買える!

卵の種類は赤と白、サイズはMとLがあるそう。プラスチックのパックじゃなくて新聞紙に包まれているのもいいですね。赤のL玉を3つ買ってみます。
私が手に持つ袋を見て、「あら! 佐藤精肉店の包装紙じゃない。そのお惣菜は香取屋さんでしょ」と店先のマダム。「香取屋は “おから” と “春雨サラダ” が好き」とのこと。しまった、春雨サラダは買わなかった! また次の宿題が増えました。
肉、惣菜、卵。予想外の買い物袋を抱え、商店街をぷらぷら。看板建築の建物がいくつもあって面白いです。たとえばこういうヨーロッパ風メルヒェンな感じとか。

右手に見えるオリエントな雰囲気の意匠とか。


オリエントなところは、イタメシ屋さんでした。まだ開店前でしたが、和洋折衷でおしゃれな雰囲気です。
看板建築と紅白の装テン! 街のよろず屋さん、といった感じで華やか。

そろそろ帰ろうかなぁ、と思いつつも後ろ髪を引くお店があと一軒。それは……さっき『逸見駅入口』交差点に行く途中にチラリと映っていた……

『あいざわ菓子舗』です!

理由は、以前知人にこちらのお菓子を差し入れてもらったことがあるからでした。せっかく近くまで来たのだから、ぜひ店頭にも立ち寄ってみたい。とのことで、『逸見駅入口』方面に少し歩きます。
店内には、横須賀の名所や歴史にちなんだお菓子がたくさん。あんを使った和菓子系が主のようですが、パイ生地やカステラを用いた洋菓子系もラインナップされています。迷う~。

親切な女将さんに話を伺いながら、いくつか自宅用のお菓子を選びました。
これで悔いなし。帰りましょう。
本日は京急の逸見駅に戻らず、『逸見駅入口』交差点からJR横須賀駅まで歩いて(徒歩5分程度)、横須賀線でホームタウン衣笠に戻ろうと思います(ウェルシティの横をまっすぐ歩いて、左折するとすぐ横須賀駅なんです)。

逸見駅を起点に、大通りの周辺を行ったり来たりした本日の散歩、(ランチ時間を含め)約2時間でした。
逸見散歩の戦利品……ずらり公開!
そして……今回の散歩のお楽しみ。逸見でのお買い物! いやぁ、家を出るときにはまさかこんなに食べ物ばかり買って帰ることになるなんて思いも寄りませんでした。
まずは『伊藤精肉店』。「開国コロッケ」と書いてある包装紙もステキ~。

炭火焼きチャーシューには自家製のタレを付けてくださったのですが「余ったタレにゆで卵を漬け込むとおいしいですよ」といううれしいインフォメーション!(もちろんやりました。最高でした)。

しっとりしたお肉の風味のあとに、炭火の香ばしさがふわっとやって来る。これは持ち寄りホームパーティの差し入れにいいなぁ。
そしてシウマイ見てくださいよ、みっちみちです。味もしっかりとついているので、お酒のお供はもちろんですが、ご飯のおかずとしても良きでした。

歩きまわった後だというのに、から揚げはまだサックサク。鶏肉と自家製ラードの揚げ油の風味を大切にした、塩だけのシンプルな味つけも好感です。

まだあります! お次は酒場のあるスーパー『香取屋』のお惣菜!
おからとサバ味噌です。

恥ずかしながら、家でおからの煮物を作ったことがない人間なので、ふだんは実家で食べるか買うかの二択。しっとり優しいおからの味が染みる……サバ味噌は懐かしい気持ちになる甘めの味つけです。これはたしかに日本酒のツマミにいい!
まだまだあります(笑)! お次は『岩澤養鶏直売所』の卵でございます。
新聞紙をくるくると外したら出てきました、立派な赤玉が!

こちらは朝ごはんの卵かけごはんにしようかしら。
そして最後は『あいざわ菓子舗』!
主に 横須賀にちなんだお菓子を(栗どら焼きは夫が栗好きという理由)アラカルトで選んでみました。



『田浦梅の里』に行ったご縁、まずは梅どら焼きを食べてみることに。人生で初めての梅×どら焼きのコラボでしたが、さわやかな白あんとさっぱりとした梅の甘露煮が想像以上の好相性。お茶だけじゃなくコーヒーにも合いそうなモダンな味わいでした。他のお菓子も順次楽しませていただきます!
逸見にはチェーン店では味わえない、店主の顔や姿勢が感じられるお店がたくさんあって、楽しく散歩できました。今度は夕方~夜にも来てみたいものです。
次回は、5駅め『汐入』駅に行ってみたいと思います。どうぞお楽しみに!
今回歩いたルート






