横須賀ぷらから通信は「【プラ】ス1時間ここ【から】歩く」をテーマにしたお散歩メディアです。

【北久里浜】『HONG KONG CAFE A BETTER TOMORROW』の「ABT弁当」と「維他奶(ビタソイ)」

北久里浜駅から徒歩3分で行ける 香港茶餐廳

京浜急行北久里浜駅を降りて北へ向かうと、アメコミを代表するキャラクター「スパイダーマン」が壁を登っているビルが現れる。

横須賀市内に点在する「スパイダーマンが壁を登っているビル」についてもいずれ詳しく紹介したいところだが、今回紹介するお店はもう少し先にある『HONG KONG CAFE A BETTER TOMORROW』。 香港を代表する映画「男たちの挽歌」の英題「A BETTER TOMORROW」を店名に冠したお店だ。

店名と外観を見ただけで「男たちの挽歌」の熱烈なファンの方が営むお店であろうことは察しかつくものの、まずはやはり店名の由来を尋ねてみた。

横須賀だからこその感銘を受けた『男たちの挽歌』

「はい。お察しの通り、店名は『男たちの挽歌』の英題『A BETTER TOMORROW』に由来しています。」そう即座に答えてくれたのはオーナーの阿翔さん。

「映画自体が面白かったのはもちろんなんですけど……。」と前置きしてから、10代の頃に受けた「男たちの挽歌」の影響を教えてくれた。

「もともと映画は好きだったんですけど、同世代の友人たちがハマる香港映画にはなぜかハマれなくて。」「そんな時に、映画通な祖父が『アジアでも面白い映画はあるんだよ』と教えてくれたのが『男たちの挽歌』だったんです。」

横須賀という土地柄、幼いながらも人種の違いを意識し、戸惑う場面も多かったという阿翔さん。

「そんな時に『男たちの挽歌』を観て、言葉にするとちょっと大げさになってしまうんですけど、『アジア人としてのアイデンティティ』のようなことを考えるきっかけを与えてくれたんです。」

「と同時に、様々な人種・国籍の友人たちのアイデンティティにも考えが及ぶようになり、友人たちとの関係にも前向きな変化をもたらしてくれました。」

「価値観や人生観を変える作品との出会いは人それぞれはあると思いますが、自分にとってはそれがこの『男たちの挽歌』だったんです。」

阿翔さんに、そんな前向きな変化をもたらしてくれた「男たちの挽歌/A BETTER TOMORROW」は、やがて、妻ゆきえさんとの出会いをももたらしてくれることになり、阿翔さんにとってまさに「かけがえのない映画」になるのである。

妻であり料理長であるゆきえさんとの出会いの経緯は「話すと長くなるので今回は割愛させて頂き」とした上で、香港料理店を出すまでの経緯を教えてくれた。

香港料理が食べたい! 香港料理を食べてもらいたい!

「結婚後、日本で暮らすことになったんですが、やっぱり『香港料理が食べたい!』ってことになるんですよね。自分も妻も。でも毎日通えるところに香港料理店があるわけもなく、毎日通えるスーパーに香港の食材や調味料が揃ってるわけもなくて。」(阿翔さん)

「だったら自分たちで作ってしまおう!と。」(料理長ゆきえさん)

ただでさえ、日本で入手出来ない食材や調味料がある上に、香港の政治的な状況の変化や新型コロナウイルスの混乱とも重なる時期だったため、本当にたくさん苦労はあったそう。でも、その苦労の甲斐もあって、現地にも負けない香港料理を作れるようになった2人は、次第に「香港の料理を食べたいけど食べられない皆さんにも食べてもらいたい!」と思うようになっていく。 「母が香港で調理の仕事をしていたこともあって、母の助けもあればやっていけるかなと」(料理長ゆきえさん)

こうして作り上げた香港料理を出す場所として選んだのは、阿翔さんが生まれ育った横須賀だった。

横須賀のカオスの中に混ざりたい!

「生まれ育った場所というのもありますが、横須賀のカオスの中に交ざりたかったんです。」(阿翔さん)

いまでも「横浜中華街とかの方がわかりやすかった」とか、「川崎で出店して欲しかった」とか言われることも多いそうだが、阿翔さんは店を出すのも横須賀と決めていた。

「横須賀って色んな人種の方がいらっしゃいますよね。それに合わせて、料理も中華料理、韓国料理、タイ料理、インド・ネパール料理はちろんのこと、ペルー料理、フィリピン料理、メキシコ料理、ベトナム料理、エジプト料理なんかもあります。」

「そんなカオスな横須賀で、香港の料理を出してみたかったんです。香港料理店として横須賀に混ざりたかったんです。」(阿翔さん)

「北久里浜の地に突然現れた香港茶餐廳」であるかのように思っていた『HONG KONG CAFE A BETTER TOMORROW』だったが、阿翔さんのお話を伺えば伺うほど、この地に、自然に、必然的に生まれた存在に思えてくる。

看板メニューを作りたい! 「A BETTER TOMORROW」という屋号だからこそのメニューとは。

「あるモデルガンのイベントでお弁当を出す際に、うちらしいメニューは何か?うちだと覚えてもらえるメニューは何か?と考え抜いた末に辿りついたのがこのお弁当なんです。」と言いながら出してくれたのが、その名も「ABT(A BETTER TOMORROW)弁当」。

「男たちの挽歌」の英題であり、屋号でもある「A BETTER TOMORROW」の名を冠した弁当だが、モデルガンのイベントには映画をきっかけにモデルガンの世界にハマったファンも多いそうで、この容器とプラレンゲを見た瞬間に「マークが地下で一人で食べていたお弁当!」とわかってくれる方も多いそうだ。

ところが、チョウ・ユンファ演じるマーク・リーが地下駐車場で一人弁当をむさぼるシーンは、実際に印象深いシーンである一方で、弁当が寄りで大写しになる訳でもなく、パンフレットなどに弁当の内容が記されている訳でもない。

そこで阿翔さんは「事実は私にもわからないのですが……。」と前置きしつつ、「叉鶏飯(チャーガイファン)やチャーハン(炒飯)など、説ははいくつかあるんですが、叉鶏飯(チャーガイファン)と2作目でも印象的だったチャーハン(炒飯)を合わせてしまえと。」

「結果的に男たちの挽歌1と2のいいとこ取りをした、想像上の夢の再現メニューになっています。もちろん、このプラ容器とプラレンゲは必須です。」と説明してくれた。

そんなお弁当に、香港映画で目にすることも多い「維他奶(ビタソイ)」を添えたテイクアウト限定メニューだが、昨年「男たちの挽歌」4K版が上映された際には、わざわざ市外から買い求めに来るお客様もいたという。

香港料理店オープンへといざなってくれた映画「男たちの挽歌/A BETTER TOMORROW」と、いまでは、その映画の世界へいざなってくれるお弁当を手掛ける香港料理店『HONG KONG CAFE A BETTER TOMORROW』。

お弁当をひとつ売るたびに、阿翔さんとゆきえさんが映画への恩返しをしているようにも思えてくる。

本場の味を提供したい! 本場の文化も紹介したい!

「A BETTER TOMORROW」は香港の茶餐廳(チャーチャンテーン)を意識していて、提供する食べ物も飲み物もなるべく現地のもの、現地の味を再現したいと思っています。」

「茶餐廳は香港を代表する文化のひとつで、地元の人々にとっても欠かせない存在なので、香港に訪れる機会があったらぜひ訪れていただきたい場所でもあります。」(料理長ゆきえさん)

その甲斐もあり、現地の雰囲気を求めて遠方から茶餐廳の味や雰囲気を求めて訪れるお客さんもいる一方で、茶餐廳の文化を知らないゆえのクレームもあるという。

「オープン前から予想していたのは『この店はインスタントラーメンで金をとるのか?』というクレームで(苦笑)」(阿翔さん)

日本だとインスタントラーメンはどうしても「家で作るもの」「手抜き料理」という印象が強いので、そういった反応があることは覚悟していたという。

「でも『出前一丁』は香港人のソウルフードで、『茶餐廳』でも絶対に欠かせないメニューなんです。だから生麺ではなく、香港そのままの『出前一丁』を使って提供したかったんです。」(阿翔さん)

ところが実際に「この店はインスタントラーメンで金をとるのか?」というお客さんが現れた時は、結果的にその場にいたすべての人が喜ぶ結果になったという。 「たまたま周りにいたお客さんたちが香港をよく知るお客さんたちで。香港でいかに『出前一丁』が愛されているか、茶餐廳でどのように食べられているかを、熱く・丁寧に説明してくれたんです。」 「『沙嗲牛肉麵』を頼んだお客さんも『出前一丁』の知らなかった一面を知り、『出前一丁』を誇らしげに思いながら、味にも満足してくれて店をあとにしました。」(阿翔さん)

料理そのものももちろんだが、その背景にある文化も知って欲しい。けれども知っていることを前提にしたり無理強いするのも嫌、という葛藤の中で、「現地の雰囲気」を唯一真似しなかったのが写真豊富なメニューだという。 これだけですべてを伝えることはできないものの、説明も一言添えて、注文する前に少しでも想像してもらえるように配慮したという。 結果的に、香港を知らなくても、茶餐廳を知らなくても、観ているだけで楽しめるメニューとなっている。

1杯のカップやグラスの中にも 異なる文化

「現地のものでないとダメな調味料や食材はたくさんありますが、そのひとつがこの黒白煉奶のエバミルクです」

「日本のコンデンスミルクやエバミルクも美味しいんですけど、やっぱり黒白煉奶じゃないと香港の味は出せなくて」(料理長ゆきえさん)

さらに牛が描かれた可愛らしいコーヒーカップ。このカップを使えるのは黒白煉奶の商品を使う飲食店だけで、個人で買うことはできないという。

「日本でいうところのアサヒやキリンのビアジョッキみたいなものですね。香港でコーヒーや紅茶を飲もうと思ったら目にしない方が難しいくらいな絵柄なんですが、日本で簡単に手に入れられるものではなくて。」と飛翔さん。

可愛らしいカップに入った1杯のミルクティー(港式奶茶)にもこんな違いがあり苦労もあるが、その甲斐あって、このマグカップを見た瞬間に、香港を思い出して嬉しそうにするお客さんも多いという。

またミルクではなくレモンが入った「檸檬紅茶」にもこんな違いがある。

厚切りのレモンが入っていて、スプーンもついている。厚切りのレモンをスプーンでこれでもかというくらいガシガシと潰して果汁を出しきってから飲むのが香港流。

紅茶は濁りかなりの酸味になるが、ガシガシと潰す作業をしながら香港のことを思い出すお客さんも多いという。

ほんの1杯のカップやグラスの中にもこんなにも味や文化の違いがある。「美味しい」と言ってもらえるのももちろんだが、知らなかった文化の違いを知ってもらえることも2人にとって、大きな喜びの一つだという。

カオスな街の横須賀で

最後に、これからの「HONG KONG CAFE A BETTER TOMORROW」の展望を聞いてみた。

「うちに来るきっかけが『男たちの挽歌』だったら嬉しいのはもちろんですが、監督『ジョン・ウー』でもいし、俳優『チョウ・ユンファ』でもいいし、その他の香港映画でも嬉しいです。」(阿翔さん)

「ちなみに、香港映画を知らない方にオススメの香港映画を聞かれた時は『男たちの挽歌』ではなくて『インファナル・アフェア』と答えるようにしています(笑)」(阿翔さん)

「映画でなくても、モデルガンがきっかけでもいいいですし、旅行や料理がきっかけでも嬉しいです。」(料理長ゆきえさん)

「横須賀観光のついでに寄ってくれるお客さまもいれば、うちを目的に横須賀に来て、その後、横須賀の観光地を楽しんで帰られるお客さまもいます。」(料理長ゆきえさん)

「せっかくこの、いろんな国の人がいる横須賀、多様な歴史を持つ横須賀、多様な環境を持つ横須賀でお店をやっているので、いろんなヒトやコトのハブになっていけたらこれ以上の喜びはないと思っています。」(阿翔さん)

幼少の頃、横須賀の地で、人種の違いを意識し、戸惑い、悩みもした阿翔さん。

アジア人としてのアイデンティティを考えるきっかけを与えてくれた作品の名を屋号に掲げ、今ではその人種の違い・アイデンティティの違いの中に積極的に混ざり、さらには掛け橋になりたいと思うようになっている阿翔さん。

少年時代の阿翔さんが今の阿翔さんとゆきえさんの姿を見たら、心から誇らしく思うだろう。
そんなお2人から読んでくれた方へのメッセージを今回の結びとしたい。

「『A BETTER TOMORROW=明日は今日よりも良い日になる』と思いながら、日々営業を続けています。皆さんのお越しを心からお待ちしております。」(阿翔さん・料理長ゆきえさん)

店舗情報

HONG KONG CAFE A BETTER TOMORROW
公式Twitter:https://twitter.com/HKABT1126
所在地:〒239-0807 神奈川県横須賀市根岸町2丁目20−12 パークサイドセブン

GoogleMap:https://goo.gl/maps/ppLp6i2HR7Qqk2pB8

健康遊具もある公園

『HONG KONG CAFE A BETTER TOMORROW』で「ABT弁当」を買って、すぐに食べたくなったら、すぐ近くにうってつけの公園がある。

「根岸第四公園」。
滑り台や消防車のような幼児向けの遊具がある一方で健康遊具もある、文字通り老若男女が楽しめる公園となっている。

地下の駐車所ではないものの、この公園で「ABT弁当」を味わうのも一興だろう。

公園情報

根岸第四公園

所在地:〒239-0807 神奈川県横須賀市根岸町2-20-1

GoogleMap:https://goo.gl/maps/UWvxLqdWXcsrtw6Z8

今回歩いたルート

HONG KONG CAFE A BETTER TOMORROWと根岸第四公園 - Google My Maps
Megane graphics(メガネ グラフィックス)
Megane graphics(メガネ グラフィックス)

デザイナー。
リモートワークの合間に横須賀の個人飲食店にお昼を食べに行くのが好き。
横須賀の個人飲食店のお仕事をするのも好き。
でも、好きな横須賀の個人飲食店が次々閉店していくのが心配。

タイトルとURLをコピーしました