京浜急行の終点、「三崎口」駅。それよりもさらに先、三浦半島の最南端にある城ヶ島に、2022年の秋フィッシュ&チップススタンドが誕生したそうです。そのニュースを知ったのが2月の頭でした。なんと! いてもたってもいられずに2月の半ば、さっそく足を運んでみました。
実は三崎港周辺のフィッシュ&チップス屋さんというのは、個人的に待ち望んでいた業態なんです。そのことはまたのちほど。まずはわくわくと腹ぺこのおなかを抱えて、いざ城ヶ島!
城ヶ島へ

城ヶ島へは三崎口駅から「城ヶ島」行きのバスに乗って向かいます。「島」ではあるのですが立派な橋が架かっており、自家用車での通行も可能。城ヶ島には広い有料駐車場があるので(そして城ヶ島行きのバスは本数が少ないので)、お持ちの方は車のほうが移動が楽ちんだと思います。


三崎港を経由し、城ヶ島大橋へ。ふと右手を見ると、海上のぼんやりとした水蒸気にずん、と頭を出した大きな富士山が見えます。

「城ヶ島漁港前」で下車し、半鐘のある交番を目印に港のほうへ曲がります。



トラックやターレが行きかう広い道に面して、ガラス張りの「FISHSTAND」入り口があります。こちらが本日の目的地!
待望のフィッシュ&チップス!

何はともあれ、フィッシュ&チップススタンドに来たのですからまずはオーダーです。レギュラーサイズのフィッシュ&チップスに、追加でタルタルディップをつけてもらいました。

待つこと数分。揚げたてあつあつ、フィッシュ&チップスのご登場です!

包み紙には活きの良さそうな(!)まぐろがフライドポテト上で跳ね踊るイラストが。そう、FISHSTANDのフィッシュ&チップスはなんとまぐろが使われているんです。

お魚のすごくいい匂いが、「写真撮ってる場合じゃないよ! 早く食べなよ!」と訴えかけてきます。


食べかけでごめんなさい。でも身のふわっと感をぜひ見ていただきたくて。まぐろの「ハラモ」という部位を使っているフリッターは、衣がサクサク、中がふわふわ(ハラモについてはまたのちほど)。いや、ふわふわなんてもんじゃありません。揚げてしっかりと温まったまぐろの脂がめちゃくちゃジューシーで、軽い食べ口なのにしっかりとした満足感を残していきます。おいしいなー!

フィッシュ&チップスに欠かせないヴィネガーにお塩、それにスパイスが無料で提供されています(スパイスについてもまたのちほど)。ヴィネガーはたっぷりかけるのがおすすめです。
むしゃむしゃうまいうまいハフハフと言いながら、あっという間に食べ終わってしまいました。
城ヶ島にフィッシュ&チップススタンドができたわけ
個人的に待望だったフィッシュ&チップス屋さん。どのような経緯で城ヶ島にできたのでしょう? おいしいコーヒーをいただきつつ、FISHSTANDオーナーの石橋さんにお話を伺うことにしました。

もっとおいしく、体によいものを。最初は思いやりから始まった
FISHSTANDの経営母体は、石橋さんのパートナーが代表を務める三崎恵水産。先代が創業されたときから数えると50年あまりの歴史をもつまぐろの卸会社、つまり問屋さんです。

「三崎恵水産はまぐろの卸問屋として、よりよいマグロを全国の飲食店や旅館へお届けする仕事をしています。まぐろは贈答品としても喜ばれていますが、定番のお刺身以外に、何か新しい価値を提供できないか? ということはずっと考えていました」(石橋さん)
そこで生まれたのが、オリジナル商品第一段の「まぐろコンフィ」。コンフィといえば低温の油でじっくりと食材を煮る調理法です。しっとりと柔らかい食感に仕上がるのが特徴です。

まぐろに造詣が深く、しかもお料理も得意という石橋さんには譲れないポイントがありました。それはできるだけ体によいものを、環境負荷の少ないかたちで提供するということ。まぐろコンフィは天然材料のみで作られており、化学調味料や保存料などの添加物は使用していません。
「長年まぐろの卸で身を立てていた会社だからこそ、社内では『魚の加工品で無添加は難しいよ』というリアクションも立ち上げ当時はありました」
難色を示すメンバーもいる中で、どうして無添加をやりたいのかを突き詰めていった石橋さん。最終的には「50年先の食卓にも、旨いまぐろを。」という三崎恵水産がかかげるスローガンと合致していったそうです。
「まぐろは水産資源の減少という問題に直面している魚種です。しかも保存には冷凍が欠かせず、消費電力量も多い。数々の課題に見て見ぬふりをせず、これからもおいしいまぐろを食べてもらうためにどうすればいいのかに取り組んできました。無添加でできるだけ体によいものを届けるのも、もとは同じ理念から来ていると考えています」
将来の世代へ手渡したいものを作る。その信念から生まれたまぐろコンフィには根強いファンが生まれて現在に至ります。そして2022年11月、満を持して生まれたのがこの実店舗でした。
FISHSTAND、実店舗へ

「FISHSTAND」はまぐろコンフィをはじめとしたオリジナル商品を販売するためのウェブショップとしてスタートしました。実店舗を持つにあたって選んだメニューが、どうしてフィッシュ&チップスだったんでしょうか?
「実は学生時代に1年間ロンドンに住んでいたんです。そのころ頻繁に、それこそソウルフードのように食べていたのがフィッシュ&チップス。いつかフィッシュ&チップス屋さんをやりたいな、というのは、当時から密かに抱いていた夢でした」
まさか三浦半島の最南端で、まぐろ屋さんの事業としてやることになるとは思ってもみませんでしたけど、と石橋さんは笑います。
「イギリスのフィッシュ&チップスはタラなどの白身魚を使います。まぐろと大きく違うのは、熱を通したときの食感。白身魚はプリプリとしていますが、まぐろの赤身だとどうしても身の締まった感じが強くなります。どうしようかなあと考えていたとき、社内で提案してもらったのがハラモでした」
ハラモとはまぐろの大トロ部位のこと。赤身と違って加熱しても硬くなりにくく、密集した筋と脂のおかげでほろほろの食べ心地が楽しめるのが特徴です。
石橋さんのアイデアと、問屋さんの経験や知恵。どちらがなくても成り立たないメニューが誕生しました。
三崎土産としても

FISHSTANDはフィッシュ&チップススタンドですが、店内でギフトセットを買って帰ることも可能。
「要冷蔵の商品がほとんどですが、保冷剤をつけてお渡ししています。遠方からの方も買って帰られますよ。あと、これなんかは常温品なので、すぐに帰るわけではないときもおすすめですよ」
そう言って石橋さんが見せてくださったのは、まぐろの角煮とスパイス。角煮は三崎ではとてもメジャーなお土産で、いろいろな会社が生産しています。でもFISHSTANDの角煮がいちばん好き、とおっしゃる常連さんが多いのだそう。

購入したスパイス「RED」は、カウンターに置いてある「YELLOW」のスパイスと味違い。「まぐろだけでなくエビや青魚にも。もちろんお肉にかけてもおいしいです」とのことで、使うのが楽しみです。


FISHSTANDのシンボル・まぐろが箔押しされたオリジナルのギフトボックスに入れれば、もらってうれしいギフトになります。

ちなみに、我が家では角煮おいしいねえ、ご飯に合うねえと言ってひょいひょいぱくぱく食べてしまったのですが、炊き込みご飯を作ってもおいしいそうです。先に気づいていれば……!

FISHSTANDのnoteでは、このほかにもたくさんのオリジナルレシピを紹介しています。
「ぜひともご自宅で、毎日の食事としてまぐろを召し上がっていただきたいんです」
よりおいしく、体によいものを。石橋さんの思いが詰まったレシピ集、ぜひご覧になってください。


まぐろ以外では、3種類あるオリジナルブレンドのコーヒーも人気。まぐろはクロマグロ・ミナミマグロ・キハダマグロ・メバチマグロ・ビンチョウマグロと5種類あり、そのうちの3種の味に特別にブレンドしています。
「実際にまぐろが入っているわけじゃないんですよ」と笑う石橋さんがこの日出してくれたのはミナミマグロのコーヒー。少し甘みのあるミナミマグロにちなみ、やわらかな口当たりの中に甘さを感じるコーヒーでした。ちなみに人気のある本マグロ(クロマグロ)にはやや酸味があるので、本マグロブレンドは酸味のあるエチオピアの豆をメインにブレンドしているんだそう。
三崎とじゃがいもの、浅からぬ因縁

さて、今回いてもたってもいられずにFISHSTANDを訪問したわけ。フィッシュ&チップスが好き! というのも、もちろんあるのですが……。なぜ以前からこのあたりにフィッシュ&チップス屋さんができないかなあと思っていたのか、ご説明しましょう。
その理由となったのが詩人の北原白秋。「城ヶ島の雨」という楽曲の作詞をしたことでよく知られているとおり、三浦三崎とはとてもかかわりの深い人物です。この白秋、一時期城ヶ島対岸の向ヶ崎町に住んでいました。そのころ白秋が書いたものとして、以前に雑徭「畑の祭」をご紹介しました。
読んでいただくとわかるのですが、白秋はなぜか地元の文物(もしかしたら人のことも?)を「馬鈴薯」と呼ぶのを好んでいたようなんです。
馬鈴薯は馬鹿囃子に浮かれて大喜びだが
凡てが如何にも馬鈴薯式なので村の祭とか田舎とか云つたりするより却て「畑の祭」とした方が適当かも知れない。
北原白秋 畑の祭 | 青空文庫
現在はキャベツか大根がメインになっているこのあたりの畑、当時はジャガイモがよく育てられていたようなんです。『雲母集』にはこんな短歌も残されています。
五月
魚かつぎ丘にのぼれば馬鈴薯の紫の花いま盛りなり
れいろうと不尽の高嶺のあらはれて馬鈴薯畑の紫の花
北原白秋 雲母集 | 青空文庫

馬鈴薯は白秋なりの愛情表現なのでしょうが、なんとなく田舎者をおもしろがっているようにも受け取れます。ぱっとしない、いわゆる「いもくさい」という意味で使っているような。なんかちょっと釈然としないぞ、お芋を馬鹿にするな! という気持ちが以前からありました。
漁港の三崎なんだから、お魚とジャガイモを使って何かこうハイカラな白秋先生を唸らせるような名物を……そうだフィッシュ&チップスじゃないか! というのがわたしの短絡的な発想でした。そしたらなんと、FISHSTANDが開店したというわけです。初めて知ったときはびっくりするやらうれしいやらでわが目を疑いました。
ちなみに石橋さんにお伺いしたところ、現在城ヶ島あたりでジャガイモを主力に生産している農家さんはぱっと思い当たらないとのことです。FISHSTANDで使われているのはおいしい北海道の北あかり。村上農場さんという、ジャガイモだけでも十数種類生産している農家さんから仕入れているそうです。

まぐろは洋の東西を問わず遠洋から、ジャガイモは北の北海道から。白秋が見ていた小さな田舎の村に比べると、現代の物流はだいぶ規模が大きくなっちゃいました。でも白秋の愛した自然は今もここに、というわけで、FISHSTANDから向ヶ崎町を眺めます。

「夕暮れどきは海沿いの建物が全部パーッと西日に照らされて、ピンクに染まるんです。ここから見る夜景もきれい。そのうち夜もお店を開けられるようになるといいなあ、と考えています」
フィッシュ&チップス以外のメニューも鋭意開発中だというFISHSTAND。昼にぷらぷらと散策をしてお土産を買い、FISHSTANDや地元のお店でご飯を食べて、お酒なんかもちょっと飲んで、ゆっくり帰るか泊まっていくか。もしかしたらそのうちこんな贅沢な休日をすごすことができるようになるかもしれません。
せっかく城ヶ島まで来てもらうのだから、ぜひ満喫してほしいという石橋さん。今後FISHSTAND発信の城ヶ島ガイドも作っていきたいと計画しているそうです。では、どこかぷらからにおすすめのコースってありますか? そう聞くと石橋さんがお気に入りのお散歩ルートを教えてくださいました。
「城ヶ島の商店街を抜けて海沿いを歩いて行ってみてください。「馬の背洞門」経由で城ヶ島公園入り口あたりまでが、ちょうど1時間くらいの散策コースですよ」
ぷらからの【プラ】ス1時間ここ【から】歩く、にぴったりなコースです。さすがの素敵なアドバイス、ありがとうございます! ぜひこのあと歩いてみたいと思います。
石橋さんには取材とおいしいフィッシュ&チップスのお礼をして、FISHSTANDをあとにしました。
店舗情報
FISHSTAND
所在地: 〒238-0237 神奈川県三浦市三崎町城ヶ島658−142
営業時間:木・金・土曜日の10:00〜16:00
電話番号: 046-881-7222
メニュー
(すべて税抜)
フィッシュ&チップス(レギュラー) 800円
フィッシュ&チップス(ラージ) 1400円
ディップソース 150円
お魚の追加 400円
ホット/アイスコーヒー 500円
季節の酵素ソーダ 600円
発酵クラフトコーラ 600円
ビール 700円
ナチュラルワイン 800円
酵素ホットワイン 800円 など
今回歩いたルート
今回はバス停「城ヶ島漁港前」からちょこっとの散策でした。次回石橋さんにおすすめしてもらったコースを歩きます。地図はそちらでご覧ください!