三笠公園の音楽噴水が終了になります
現在は戦艦三笠が圧倒的に有名な「三笠公園」。「横須賀中央」駅から歩いて15分ほど、海沿いにある公園です。猿島へ向かう連絡船の波止場がすぐ隣にあるので、その印象で覚えていらっしゃる方も多いかも。

この三笠公園、入口から見るとちょうどㄱのような形をしています。入口から見て左に曲がった先、芝生広場の向こうにあるのが音楽噴水池。1日に数回、流れる音楽にあわせて噴水が出るという設備です。池には照明も仕込まれていて、以前は夜のライトアップも見どころでした(現在は夜の運転を停止しています)。
この音楽噴水の運用が2023年7月いっぱいをもって終了となることが、先日発表されました。理由は老朽化ということで、わりともうどうしようもないところまで設備が傷んでしまっているようです。子どものころから親しんできた身としてはとても残念なのですが、今となってはどうすることもできない。
というわけで、最後に名残を惜しむべく写真と動画を撮ってきました。動画は横須賀ぷらから通信のYouTubeチャンネルにアップしましたのでご覧ください。足を運ぶことが可能な方は現地でもぜひ!
この動画は14時に撮ったもの。日中なのでわかりにくいですが、池に照明があるのが見えるでしょうか。

これは同じ日の17時に撮ったものを、少し暗めに加工した写真。池の中から照明が照らしているのがわかります。もともと音楽噴水は夜間の運転がありました。以前に見たことがあるのですが、原色のライトがビカビカに噴水を照らしていてなかなか派手な感じだったのを覚えています。毎年8月に行われていた開国祭の日などは、花火のあとにこの音楽噴水を見かけて「花火に負けず劣らず派手だなー」などと思ったものでした。
コロナ禍以降、開国祭の花火は10月に開催されています。詳細は横須賀市観光情報からご覧ください。

現在は音楽噴水を自動運転させるための設備が故障しているため、管理事務所に人がいる時間しか動かせないんだそうです。最後に1回くらい夜の回が見られないかなあ、むずかしいかな。

中央の噴水は真ん中にライトがあるため、比較的光の具合がわかりやすいです。これが夜だったら派手そうでしょう?
以下、何枚か写真をスライドショーでご覧ください。

音楽噴水は入口から向かって右の海側に故障が多いように見受けられました。もともとは噴出口が線対称になっていたと思います。この写真は向かって左、横須賀学院側から撮ったもの。

音楽噴水の周りにはたくさんのヤマモモが植えられていて、音楽が鳴るスピーカーの上にもたっぷりと実を落としていました。完全に違う話題になってしまいますが、横須賀市のヤマモモといえば、これです。

グリーンウォッチングヨコスカの記事でもたびたびご紹介してきた「食べられます」シリーズ。三笠公園の指定管理者である横須賀三笠・西部パートナーズにもそのスピリットはしっかりと受けつがれていました。

音楽噴水のさらに奥、ベースとの境界線にたつ大型の壁泉は、現在水が出ていません。ちょっと遺跡感ある乾いた姿もなかなかおもしろいものでした(が、やはりちょっとさびしいですね)。
10,000メートルプロムナード計画
さて、この音楽噴水、実は横須賀市の都市計画上で重要な位置を占めている設備です(もしくは、でした)。1980年代、横須賀市は10,000メートルプロムナード計画というものを打ち出し、JR横須賀駅から観音崎までの海岸線を再整備していきます。その中でも市制80周年(1987年)の記念事業として「水と光と音の公園」の名のもとにできたのが現在の三笠公園でした。

つまり現在の三笠公園というのは、ただ公園としてぽん、とまちの中にあるわけではなく、10,000メートルプロムナードの一部としていろいろな人がやってきて、またその先へと歩いていく場所、周辺の環境とお互いに影響をおよぼしあう場所として作られたわけです。
わたしは三笠公園は市街地の端っこのほうにあり、横須賀中央に用がある人が必ず通るとはいえない場所、という印象を持っていました。でも、実際に周辺の市街地も含めて歩く場所、として見直してみるとどうなんでしょう。というわけで、ここから先は10,000メートルプロムナードを実際に歩いてみる記事になります!
ちなみに10,000メートルプロムナード事業より以前の三笠公園はどうだったのかというと、ちょうど戦艦三笠のあるあたりが行き止まりの小さな公園だったそうです。1980年代に米軍から返還された隣接地を整備して現在の三笠公園ができあがりました。敗戦直後のものではあるのですが、大きくなる前の三笠公園が映った映像が東京にある「昭和館」のウェブサイトに掲載されています。
10,000メートルプロムナードを歩いてみる
さて、実際に10,000メートルプロムナードを歩いてみよう! となるとちょっと困ったことが起こります。何かというと、10,000メートルプロムナードが正確にどこの道のことなのかがいまいちよくわからないのです。
横須賀市のウェブサイトには10,000メートルプロムナードの簡単な地図が掲載されています。

ヴェルニー公園から国道16号線に出て三笠公園方面へ。そのままよこすか海岸通りを海沿いに進んで観音崎まで、というように見えるのですがどうでしょうか。
ちょっと自信がなかったので、『横須賀市史 下巻』(1988年)および同時期に横須賀市が専門誌などに掲載した10,000メートルプロムナードの計画図をいくつか見てルートを確認しました。すると、なんと! 出発点はヴェルニー公園ではなくてJR「横須賀」駅でした。そうきたらやっぱり計画当初のスタート地点から歩きたいです。横須賀駅に行ってみます!

ちなみに今回の記事、写真は5月中旬と6月上旬の2回にわけて撮っています。晴れた空があるかと思えば雨に濡れた地面が写るのはそういうわけです。ご容赦ください。
今回歩いたルート
JR横須賀駅から

午後2時半。JR横須賀駅に到着。東京駅から横須賀線で約1時間20分。1万メートルプロムナードの起点です。駅を出て左に向かうと港で、そこには軍艦が見える、横須賀ならではの風景です。
運輸振興協会 編『トランスポート』44(6)(513),運輸振興協会,1994-06. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2023-06-20)
横須賀市の港湾局開発課(当時)が雑誌「トランスポート」に寄せた文章はこのようにして始まります。この雑誌記事、午後2時30分から午後6時までの3時間半で10,000メートルプロムナードを歩ききるという猛者の企画なのですが、まあそれはそれとして当時のルートに沿って歩きはじめてみましょう!

ちなみに最近、竹野内豊が主演した2004年のテレビドラマ『人間の証明』を見返していました。2004年版の『人間の証明』では横須賀が主人公の出身地なのでちょこちょこ映像として出てきます。この道もまさに主人公が歩いていました。当時から記憶の中ではあまり変わっていないように思っていましたが、注意して見てみると何かと変化があるものでした。
2004年版の『人間の証明』は現在FODのレンタルサービスで視聴できます。20年経った現在から見るとキャスティングや演出に少々ならず問題が見つかりますが、全体としては丁寧に作られたドラマだと思います。ご覧になったことのない方はぜひ。



10,000メートルプロムナードが整備された当時、ヴェルニー公園は「臨海公園」と呼ばれていて現在のような姿をしていませんでした。そのためか当時はあまり重視されていなかったようですが、現在は植栽を楽しむこともできるし、軍港を眺めることもできるし、レストランで食事もできるし、という公園です。

なんと10,000メートルプロムナードはショッパーズプラザ横須賀(当時。現在はコースカベイサイドストアーズ)の中を突っ切っていきます。以前は深夜になってからもショッパーズの中を通行できたことがご記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。ショッパーズ時代は10,000メートルプロムナード計画の一環で24時間メイン通路を開放していたのだそう。深夜のショッパーズにはわたしも大晦日のカウントダウンのときなどにお世話になりました、カウントダウン会場のヴェルニー公園がとてもとても寒かったので……。
よこすかカウントダウン2023は中止になりましたが、今年はどうでしょうか。詳細は決まり次第横須賀市観光情報でご覧になれると思います。


現在は24時間開放、とはなっていませんが、せっかくなのでいちおうコースカの中を通っていきましょう。

10,000メートルプロムナードの中に組み込もう、と当時考えられたのも納得の眺望です。



コースカの中はお客さんが多いので写真を省略しまして、正面出入り口から国道16号線に出てきました。てくてくと三笠公園方面へ向かいます。
三笠公園通り


現在はベース(米軍基地)入口に三笠公園のゲートが立っているため、ここで左に曲がるのが正規ルートであるように感じられます。しかし10,000メートルプロムナードの地図をよくよく見てみると、もうひとつ先の交差点で左に曲がることになっています。



周囲の風景が不思議な断片で写り込むこのモニュメントは井上武吉という彫刻家の「MY SKY HOLE」。MY SKY HOLEは井上武吉の代表作だそうで、同じ名前の作品が日本各所にあります。検索すると球体をしているものがたくさんヒットします。球体から切り出したようなこの形状は発展系と呼べそうです。名前の通り「天を覗く穴」であり、「自分だけの至福の空間」という意味も持つというこの作品。覗くたびに違うものが見えるんだろうなあと思います。

わたしは不勉強なのでわかっていないのですが、もしかしたら右手に見える構造物(スケートボードのアールのようなもの)なども「MY SKY HOLE」という作品の一部に含まれるのかもしれません。形は違いますが同じ素材の構造物が写真左手(現在仮囲いの中に隠されてしまっているところ)にもあります(あるはずです……撤去されていなければ)。

隣接する横須賀学院が工事中だったこともあり、今回はこの道沿いに点在するパブリックアートをあまり撮影していません。けっこう作品があるんですよ。ぜひ探してみてください。


噴水が止まり、水が流れなくなってしまったこの道ですが、設計者によるともともとは子どもが水と親しむことをコンセプトとして設計されているそうです。
こども達に必要なのは、身近で、しかも小さな規模の水あそび場であることを強調したい。大きくなくてもよい、幅2〜3mで水深も深くなくてよい。そういう水あそびの場所が日常的に欲しいのである。
『新都市』42(9)(500),都市計画協会,1988-09. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2023-06-20)
この議論の前提には、子どもの犯罪や非行と都市空間には負の相関関係があるのではないか、という提言があります。この論点にかんする是非はおいておきますが、「都市には子どもが身体的に思いっきり遊べる場所が少ない」という問題意識が当時ある程度共有されていたということなんだと思います。
設計者による解説ページには竣工当時の写真が掲載されています。わんさか子どもが遊んでいますね……。少し時代は下りますが、わたしもびっしゃびしゃになりながらこのあたりで遊んだクチです。そして盛大に濡れたあとは電車で帰宅したはず。この歳になると親の苦悩が偲ばれます……。
ちなみにこの道は「三笠公園アプローチ」「三笠公園通り」などいろいろな名前で呼ばれているようですが、正式名称は「三笠公園通り」でよいのでしょうか。

さて、肝心の10,000メートルプロムナードですが、ふたつ上の写真にも写っている丸いライトの街路灯が目印になっています。10,000メートルプロムナードであればどこにでもある、というわけではないのですが、ところどころポツンポツンと立っていて、近寄ってみると「うみかぜの路 海と緑の10,000メートルプロムナード」と書いてある銘板が取りつけられています。

三笠公園通りと並行して走るよこすか海岸通り沿いにもこの街路灯がある交差点がありました。どういう基準で設置されているのか、謎が深まります。
水と光と音の公園
さて、三笠公園通りのつきあたりにある三笠公園は「水と光と音の公園」であるわけですが、音楽噴水がなくなってしまうと光と音が失われてしまうなと思っていました。しかし! そういえば忘れていました、三笠公園にはもうひとつ「音」があるんでした。

團伊玖磨作曲、合唱と管弦楽のための組曲「横須賀」が流れるモニュメントです。こちらもたびたび故障していましたが、現在はフルで稼働しています。現在はちょうど音楽噴水が15分間稼働した直後から組曲「横須賀」が流れはじめる(時間は45分です)という塩梅になっています。
團伊玖磨は「横須賀市市制施行80周年記念要覧」という冊子の中で横山和夫市長(当時)と対談しています。当時再開発の計画中だった旧EMクラブにからめて海外からの公演を受け入れられる劇場がほしいと述べるなどしていました(そして後年ほぼ要望通りの施設、横須賀芸術劇場がつくられました)。
このことからもわかるように團伊玖磨は横須賀市出身の偉大な芸術家であり、かつ当時の芸術文化施策に強い影響力をもっていました。市制80周年記念事業として作られた三笠公園にその作品が残されているのは象徴的だなあと思います。

新港ふ頭周辺

三笠公園入り口前の道をまっすぐ進み、10,000メートルプロムナードはよこすか海岸通りへと続きます。新港ふ頭周辺は通りすぎるかたちになりますが、「歩く」ということを考えるとこのあたりは最近だいぶ変わりました。10,000メートルプロムナードとしてはオマケになりますが、周辺をうろうろして今回の散策を終わりにしたいと思います。

ポートマーケットは横須賀中央駅を起点にして考えると「ちょっと遠いな……」という印象がぬぐえません。10,000メートルプロムナード的にはちょっと寄り道すればいいだけ、三笠公園もすぐ近くです。散策途中に立ちよるというイメージはあまりないかもしれません。が、カフェもあるし建物全体が大きなフードコートみたいなつくりで、ひと休みスポットとしては悪くないと思うんですよねえ。

さて、ポートマーケットではお昼ご飯を食べまして、そのまま新港ふ頭へと向かいます。長いこと部外者の立ち入りができなかったふ頭ですが、2021年の東京九州フェリー就航に伴って一部に立ち入ることができるようになりました。


取材日はラッキーなことにフェリーも自動車運搬船も止まっておらず、ターミナル越しに猿島を眺めることができました。

フェリーが横須賀に到着するのは夜ですが、それ以外の時間もターミナルは営業しています。ただしカフェとショップは18時からの営業。それまでの時間はどうなっているかというと……


眺望のよいターミナル2階が貸し切り状態です。このターミナルは乗客以外も利用できる太っ腹仕様なんです(と、「ヨコスカイチバン」のショップページに記載がありました)。

ターミナル1階に自動販売機があります。ジュースなんかを買って、飲みながらここでちょっとのんびり……そんなお散歩もいいですね。
音楽噴水は2023年7月いっぱいです
10,000メートルプロムナードの目玉として設置された三笠公園の音楽噴水。その10,000メートルプロムナードには「歴史とショッピングの道」「緑とスポーツの道」「海辺の散歩道」「海と遊ぶ道」という4つのセクションがあります。今日歩いたコースは「歴史とショッピングの道」にあたります。
三笠公園は「歴史とショッピングの道」と「緑とスポーツの道」のハブであることを期待された(であろう)「水と光と音の公園」です。三笠公園だけでなくポートマーケットやフェリーターミナルも含め、新港ふ頭一帯が散策の途中に立ちよってひと休みするようなエリアとしてもっと認知されていくといいなあと、そんなことを思った1時間散歩でした。
さて、そんなわけで最後にもう一度本記事のメインを。三笠公園の音楽噴水は2023年7月31日をもって稼働を終了します。チビッコ時代の思い出がある方、今まであまり気にしたことがなかったなあという方、三笠公園に行ったことなんてないよという方も、ぜひ一度現地で最後の姿をご覧くださいね。
ちなみに音楽噴水、終了したあとはそのまま放置ではなく、公園のほかエリアも含めたリニューアルの計画がいま作られているそう。冬にはパブリックコメントも予定されているということで、今後についても期待していきたいところです。