Apple Musicで個人的に作って公開している「横須賀 ヨコスカ YOKOSUKA」という名前のプレイリスト。
タイトルや歌詞に「横須賀」もしくは横須賀市内の地名が明記されているもの、またアーティスト本人等が横須賀についての楽曲であることを明言しているものを集めて、基本的にリリース順で並べています。『横須賀ストーリー』のようにたくさんのアーティストがカバーしているものは、基本的にオリジナルのもののみ入れています。
前回に引き続き、このプレイリストの中から数曲をピックアップしてお散歩ルートを組んでみたいと思います。今回は久里浜から野比にかけてを海岸沿いに歩くコースです!
前回の記事はこちらからどうぞ。
ちなみに音楽を聞きながらお散歩をする際は、まわりの音を完全にふさいでしまわないよう、安全にご注意の上お出かけくださいね。
本日のお散歩ルート
「京急久里浜」駅
駅前でちょっと寄り道

京急久里浜駅東口からスタート! 今回はまあまあ長い距離を歩くので、ルートのおすすめとしては東口から「久9・19・29」系統のバスに乗って「開国橋」バス停まで行くつもりでいます。
が、せっかく駅前にいるのでちょっと寄り道をしましょう。信号を渡ってアーケードのある「はろーど通り」商店街を進みます。

ドラッグストア前で左に曲がってから振り返ったところ。10月で営業を終了された久里浜一升屋さんの前です。このあたりから先の路地は通称「たそがれ横丁」と呼ばれています。

飲み屋街なので昼間はひっそり。
たそがれ横丁を抜けると、平作川沿いにある交番とローソンの間に出てきます。昔はここに「たそがれ横丁」と書かれたアーチ看板がありました。

アーチ看板とは商店街の入り口にある門のような看板のこと。飲み屋街の場合はお店の名前がずらりと並んでいることも多いです。現在の横須賀市内だと「横須賀中央」駅前の「若松マーケット」にアーチ看板があります。


アーチ看板が見えるところに何があるか? というと、平作川を渡る夫婦橋があります。近くには「浦賀」駅方面から来る「夫婦橋」バス停が。もともとたそがれ横丁はこのあたりの漁師さんたち、それに浦賀の造船関係で働く人たちが訪れる飲み屋街だったそう。そのためメインゲートが駅側ではなく平作川側にあったのだと思います。
加美二郎『久里浜たそがれ横丁』
というわけで本日の一曲目は加美二郎の『久里浜たそがれ横丁』です。配信されているサブスクリプションサービスが少ないので、リンクはApple Musicでご容赦ください!
2013年リリースの楽曲ですが、歌詞を読むと情景はまさに海の男でにぎわっていた時代のたそがれ横丁。わたしはまったく存じ上げなかったアーティストですが、地元では人気のあった方だそうです。こんな時代もあったんだなあと思いながら久里浜駅前をあとにしまして、バスでひょいっ! と移動します。

ペリー通りとペリー公園と

開国橋バス停で下車すると海が見えると思います。平作川が海に流れ込むこの場所あたりから先、海沿いの道が通称「ペリー通り」。ここからはペリー通りを歩きます! 名前はもちろん黒船を率いて来航したペリー提督にちなみます。

ペリーの艦隊が来航した当時、写真中央に見える埋め立て地などはまだ存在していませんでした。今よりも海原が広かったところに、当時としては巨大な戦艦が4隻。すごい光景だったんでしょうね。
S★スパイシー『およげ!しらすちゃん~生しらす丼Ver~』
横須賀市の方にとっては釈迦に説法ですが、歴史の教科書ではペリーが来航したのは浦賀になっています。東京湾全体を航行する船舶の担当が浦賀奉行所だったために公的記録に「浦賀」が残ることになったのですが、横須賀市民的にはペリーといえば久里浜。ほかの地域の人とペリーについて話がかみ合わなかった経験のある方も多いのでは。
かみ合わない感じがうまいこと歌詞に出ている楽曲もいくつか見つかります。たとえばアイドルグループS★スパイシーの『およげ!しらすちゃん~生しらす丼Ver~』(2015年)では黒船が浦賀にやってきたことになっています。この楽曲はしらすをメインのモチーフに神奈川県の名所案内をしている、いわゆるご当地ソングです。ご当地ものなのにペリー=浦賀、なんですよねえ。

さて、海沿いを少し歩くと進行方向右手にペリー公園があります。

公園の中には大きなペリー来航記念碑が。伊藤博文の揮毫ですが、太平洋戦争中は敵国を顕彰するものだとして引き倒されていた、というのは有名な話。


記念碑の奥にはペリー記念館があります。小さな資料館です。規模的にはヴェルニー公園にあるヴェルニー記念館と同じくらい、でしょうか。これといって貴重なものが展示されているわけではありませんが、ひとめぐりすると黒船来航の詳細と当時の社会状況が何となく理解できます。横須賀市の小学生は学校行事で一度は来館しているはず。

レキシ『ペリーダンシング feat.シャカッチ』
黒船来航をテーマにした楽曲はいくつもあるのですが、今回はレキシの『ペリーダンシング feat.シャカッチ』(2011年)を選んでみました。歌詞だけ取り上げるとコミックソングなのですが、ダンサブルで完成度の高い楽曲なんです。ちなみにこちらも残念ながら歌詞に久里浜の文字はなく、来航したのは「浦賀沖」になっています。


ペリー公園の近くには避難場所が載った地図が掲示されていました。以前に防災の日特集でもお伝えしましたが、久里浜は津波の際に高台へ逃げるのがちょっと難しい地形をしています。もしものときは早めの避難が重要です。
「ペリー久里浜」
ペリー、ペリーとたくさん書いてきてそろそろ「ペリー」の文字がゲシュタルト崩壊してきそうですが、もうひとおし! 久里浜港は「みなとオアシス ペリー久里浜」という施設としての顔も持っています。
全国の港湾のうち、情報発信・交流・物産品の販売などでまちづくりに寄与するとされる場所が「みなとオアシス」に認定されるんだそう。全然知らなかったのですが、久里浜港は2018年からみなとオアシスになっています。


久里浜港もといペリー久里浜には、東京湾フェリーのターミナルをはじめとして各種直売所やスーパー銭湯があります。最近は法塔ベーカリーが安浦から移転してきましたね。
ちなみに本日の出発地点だった京急久里浜駅東口にも法塔ベーカリーの自販機が設置されました。場所はもともとゆうちょ銀行のATMがあったところです。バスロータリーの目の前です。お出かけの際はチェックしてみてください!

漣研太郎とピストルモンキーズ『横須賀メリー』
港に着いたところで次の一曲。横浜を中心に活動している「漣研太郎とピストルモンキーズ」の『横須賀メリー』(2013年)です。恋する女性を「一羽のかもめ」に見立てる歌詞に「久里浜」の地名が出てくるので港で再生してみました。
恋愛・女性・かもめと来ると悲恋が多いような気がします。横須賀を舞台にしたものではほかに渡辺真知子『かもめが翔んだ日』や山崎ハコ『ララバイ横須賀』などがぱっと思い浮かびますが、どちらも別れの曲ですね(これらの楽曲も「横須賀 ヨコスカ YOKOSUKA」プレイリストに入っています!)。

かもめは冬の渡り鳥なので、海辺に人が多い真夏にはまず見かけることがありません。港と言われてすぐにかもめを連想する人は冬の海が好きな人だと思います。冬の海、というだけでちょっと心細く寂しい感じがするので、たしかに舞台としては悲恋向きかも。
七尾旅人『Long Voyage「停泊」』
久里浜港を発着する東京湾フェリーが出てくる楽曲といえば七尾旅人の『Long Voyage「停泊」』(2022年)です。東京湾フェリーのくだりはアーティスト本人の個人的なできごとを取り上げているのですが、楽曲全体のテーマはもう少し大きいもの。船出すること、停泊すること、それがどこに行き着くのかは本人にもわからないこと、をあたかも人生そのものに見立てるようにして歴史上のできごとをたどりながらつづっています。

久里浜港のふ頭は埋め立て地。昔の海岸線をしのぶことができるのが近くに建っている住吉神社です。住吉神社は往時波打ち際にあったと考えられています。鎌倉時代の文献にも出てくるその歴史については樽瀬川さんの記事をどうぞ!
千駄ヶ崎から野比へ

久里浜港をあとにして、そのままペリー通りを進みます。ちなみにこのあたりなのか、この先なのか、どこかからはよくわからないのですが、久里浜から野比へと地名が変わるあたりで通りの名前はペリー通りじゃなくなるみたいです。

左手には火力発電所の建物が。よく見てみるとなかなかかっこいいんですよね。

トンネルに入ります。車両が通行できるのが「千駄ヶ崎隧道」、以前防災の日特集で歩いた細いトンネルが「千駄隧道」。ややこしい。
さて、このあたりで次の曲を再生します!
Rydeen『Remember Kurihama』
横浜を拠点に活動するバンドRydeenの『Remember Kurihama』(2006年)。千駄ヶ崎隧道を抜けると見える景色が曲中に出てきます。

海です!
歩いているとそこまでではないのですが、車に乗って千駄ヶ崎隧道を抜けると視界いっぱいに海が広がるんですよね。はじめてこの道を車で通ったときとても印象に残った、ということは市外から来た人によく言われます。

さて、それだけだと野比海岸いいよね、という話で終わるのですが、この曲にはもうちょっとエピソードがあります。セルフライナーノーツによると、メンバーのひとりがアルコール依存症で国立久里浜病院に入院していたことがあり、そのときのことをつづっているのだそう。

久里浜病院のような専門性の高い病院にかかる機会のある人というのはそこまで多くないと思います。横須賀で暮らしている人でもあまり具体的な印象を持っていないかもしれない場所。知らない横須賀の一面を教えられるなあ、という気持ちで選びました。
ちなみにハードコアバンドの曲なので歌詞はちょっと聞き取りにくいです。がんばって聞いてみてください。
平岡ひぃら『ウタタネの唄』
『Remember Kurihama』はちょっと重ための内容でしたが、対照的にのんびりおだやかな楽曲が平岡ひぃらの『ウタタネの唄』(2021年)。ミュージックビデオのアニメーションがめちゃくちゃかわいいので、ぜひ一回再生してみてください。
しかしこの曲、楽曲アートワークは井の頭公園だし、どのへんが横須賀……? と思いましたか? 動画の1分30秒当たりをぜひもう一度。歌詞も見てみてくださいね。

そう、野比が隠れているんです。

「YRP野比」駅へ

海岸沿いをずっと歩きながら「YRP野比」駅方面へ向かいます。突き当たりは国道134号線。
Jen9a & Jollt『Route134』
横須賀の若手ヒップホップアーティストJen9aとJolltによる『Route134』(2023年)にも、『ウタタネの唄』と同様さりげなく野比が出てきます。どこだか聞いて探してみてくださいね。
楽曲アートワークのように夜のドライブが似合うメロウなトラックがいい感じ。ちなみにこのふたりは4人組ラップグループJUS’MINEのメンバーとしても活動しています。

このまま海岸線沿いに歩いていくと公道からいったんそれます。長沢のほうまで公園緑道になっていて、突き当たりで134号に出られるようになっています。今回はYRP野比駅に行きたいので、緑道の途中で曲がります。以前に歩いた野比川沿いをしばらく歩き、134号を目指します!

今回は立ち寄りませんでしたが、このまま海岸沿いにしばらく歩くと若山牧水の記念碑があります。有名な「白鳥はかなしからずや」の短歌が刻まれています。海辺の悲しさ、というと、この歌の「白鳥」ももしかしたらかもめなのかもしれませんね。


最初の橋にぶつかったところで右折し、134号線に出てきました。写真に写っているほうが長沢方面。反対側に歩いてYRP野比駅へ向かいます。
すごいバンド名にしたかった。『YRP野比』
野比駅に着いたあたりで最後の楽曲! 「すごいバンド名にしたかった。」(これがバンド名です)の『YRP野比』です。2022年の楽曲なのですが、ほんの最近になってミュージックビデオが公開されていました。
「僕らの住む街」という歌詞ですが、このバンドは東京出身なのでとくにゆかりはないはず。おそらく駅名がおもしろいと思って曲にしてくれたんだと思います。これだけ「YRP野比」が連呼される曲はあとにも先にも生まれないはず。ぜひ長く愛されてほしいと思います。
本日のプレイリスト
というわけで久里浜から野比を歩くプレイリスト、完走です! 今回もお疲れさまでした。各種配信サービスでのプレイリストは以下からどうぞ。
Apple Musicは有料サービスです。Spotifyは会員登録のみで無料利用ができますが、プレイリストやアルバムはシャッフル再生しかできません(曲順での再生は有料会員のみ可能です)。Youtube Musicはスマートフォンではアプリとログインが必要ですが、ブラウザ版ではログインなしで利用することができます。YouTubeと同様、広告が入りますが無料で利用できます。
Apple Music
Spotify
Spotifyには『久里浜たそがれ横丁』『Remember Kurihama』が入っていません。
YouTube Music
YouTube Musicには『久里浜たそがれ横丁』が入っていません。また、『およげ!しらすちゃんは』S★スパイシーではなくオリジナル(KAGAJO☆4S)のMVを利用しています。