これまでに3回にわけて、横須賀市の「海と緑の10,000メートルプロムナード」を歩いてきました。
記事公開順は不同になるのですが、出発点(横須賀駅)から道順に歩くと以下のようになります。
今回は10,000メートルプロムナードの残りの部分を終点の観音崎まで歩いてみたいと思います。計画当初の区分では、「海辺の散歩道」後半と「海とあそぶ道」にあたります。
ちょっとしんどかったので & 今回のお散歩コース
くわしくは歩きながらお話できればと思うのですが、歩いていてしんどいな……と思うエリアがあったので、気分を上げるために音楽プレイリストにも頼ることにしました。
ですので今回は「音楽プレイリストで歩く横須賀」シリーズの番外編でもあります! ただし曲数はちょっと少なめです。
歩いたルートはこちら。
マボチョク
以前に大津地区高潮対策護岸を歩いたとき、このあたりで海岸線を離れて京急大津駅へ向かいました。同じところに戻ってきて、散策をスタートします!
国道16号線沿いに作られた遊歩道、通称「マボチョク」を歩きます。「馬堀の直線道路」という意味だと思いますが、その通り、まっすぐな道が海沿いに続きます。
ここ大津港を過ぎると、1キロ半ほど馬堀海岸が続きます。胸壁を乗り越え、消波ブロックの上で釣りをする人たち。路上にとめられた車から鳴り響くノリのいい音楽。道路の向かいに連なる小ざっぱりとした住宅群。ここもまた横須賀らしい風景です。
運輸振興協会 編『トランスポート』44(6)(513),運輸振興協会,1994-06. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2024-01-20)
引用したのは10,000メートルプロムナード計画が進んでいたころの文章。しかも、横須賀市が港湾関係の専門雑誌に寄稿したものです。現在のマボチョクは釣り禁止ですし、そうでなくても消波ブロックの上まで歩いていくなんてひんしゅくものです。おおらかな時代だったんだなあと思うとともに、実際に海で起こってしまう事故のことを連想してちょっと考え込んでしまいました。
しかしマボチョクを歩いていて、思ってもみないことが起こりました。飽きちゃうんです。ずっときれいに整備された遊歩道、左には海、右手にはヤシの木。ドライブするとめちゃくちゃ気持ちのいい道なんですけど、歩きまでスピードを落としてみると代わり映えしない風景に思えてきてしまいました。
ふつう代わり映えしない風景というともっと無機質で人工的な景色のことを指すような気がします。一時期はやった「ファスト風土」という言葉が象徴的です。
マボチョクも人工的といえば人工的なのですが、こんなに海がよく見えて、潮風に吹かれながら、でも歩くのがちょっと苦痛というなんともいえない事態。これはちょっとしんどいぞ……! と思ったので、苦し紛れに音楽の力に頼ることにしました!
矢沢永吉『レイニー・ウェイ』
バンド「キャロル」でデビューする前の矢沢永吉が横浜や横須賀の米軍クラブで演奏していた、というのはわりと有名な話。このことは「横須賀マンボ」というファッションスタイルについて書いた記事でも取り上げたことがあります。
矢沢はソロアーティストになってからもたびたび横須賀を楽曲に登場させます。1980年にリリースされた『レイニー・ウェイ』もそのひとつ。横浜市の本牧から「国道」を走って横須賀へと向かうバイカーの心情が吐露されている楽曲です。
本牧と横須賀を結ぶ国道とは、まさに今歩いている国道16号線のこと。「横須賀こせば しん底冷える」という歌詞の「横須賀」は横須賀駅周辺のことと思われます。雨降りの夜、海沿いを走るバイク。それはさぞかし寒かろうと思われます。
遊助『横須賀DRIVE』
『レイニー・ウェイ』から下ること40年、次の楽曲は遊助の『横須賀DRIVE』(2020年)です。遊助も横須賀の曲をたくさん発表していますが、中でもこの曲は本町山中道路(当時はまだ有料道路でした)を出てきて海沿いを久里浜まで走っていくという、まさに16号ソング。マボチョクも出てくれば海に浮かぶ猿島だって出てきます。
左手には猿島がぷかり。この角度から見るとクジラみたいですよね。
shunsaku『ヨコスカ・ボン・ヴォヤージュ』
猿島といえば思い出すのが、shunsakuというアーティスト名義で2022年にリリースされている『ヨコスカ・ボン・ヴォヤージュ』です。この楽曲をYouTubeで探すと、違う名義のチャンネルがいくつか出てきます。おそらく同じ方なのだとは思いますが現時点では謎に包まれています。
ベッドのシーツで大きな帆を作って猿島にかけて船にしちゃおう!という愉快な歌詞がほのぼのします。まさにボンヴォヤージュ。YouTubeのサムネイルも、まさにここマボチョクで撮影されていますね。
走水水源地公園
3曲聞きながらなんとかマボチョクを完歩しました。危うく散歩に飽きるところでした。危ないところだった……。ちなみにマボチョクはランニングコースとして人気です。歩車が完全に分離されているし、眺めはいいし、道幅は広いし、たしかにランをするには快適な場所です。マボチョクは歩くものではないのかもしれない……。
これにて直線は終わり。走水に入るなりいきなり道はうねうねと、起伏に富みはじめます。目の前にある岩礁のように歩道から立ち入れる波打ち際もあります。マボチョクはもしかしたら、こういうスペースがないところが単調に感じられたのかもしれません。
そんなことを考えながら歩いていると、ふたたび浜への入口が。そして塀が仕切っているのは走水水源地公園の敷地です!
明治初期の横須賀製鉄所建設まで遡る横須賀の水道史。最初に上水道の水源として選ばれたのがここ走水の地下水でした。最近は長らく「走水水源地」として親しまれてきましたが、2021年に公園として一般に開放されました。
水源地というだけあり、現在でも井戸水「ヴェルニーの水」を汲んで持ち帰ることができます。水源があるのは東側。わたしは西側から入園しました。
桜の名所としても知られる走水水源地公園。今年はずいぶん暖かな冬になってしまいましたが、来春ちゃんと桜が咲くといいですねえ……。
さて、入口付近でお知らせされていた工事の様子が見えてきました。海沿いに重機が入っています。護岸の関係でしょうか。
そしてこれが大切な情報! 本記事は2024年1月24日公開予定ですが、つい先日から工事に伴い水源が利用できなくなっています。間違えてお出かけにならないようご注意ください。
2008年から自由に汲むことができるようになったヴェルニーの水。当時市営水道100周年だったんですね。
公園の端っこ、駐車場の脇には走水海岸(伊勢町海岸)へ出られる通路があります。
小さな浜ですが、芝が生えている部分もあってちょっと座ったりするのにはぴったり。ただし飲食をするとあっという間にトンビに狙われそうです。
破崎緑地展望デッキ
海鮮がおいしいことで有名な旅館があるエリアを通り、ゆるゆると坂を上っていきます。漁港が一望できるポイントも!
上りきったあたりにあるのが破崎緑地展望デッキ。がけの上にせり出した眺望スポットです。このあたりは以前樽瀬川さんが歩いてくれています。
先ほど見た走水水源地公園の地図に方位が書いてありました。このあたりは海岸線がほぼ東西まっすぐに伸びていて、北側に海があります。そのため西側の眺望が比較的よく、東京湾にいるのに日没が見えるんですねえ。
渡辺真知子『Welcome to Yokosuka』
と、書いて思い出すのが渡辺真知子の楽曲『Welcome to Yokosuka』(1983年)です。歌詞にはまさに「このまま16号 海沿いに走っていって」というフレーズが。市外からやってきた恋人とドライブする曲です。ここでもやっぱりドライブ。16号は歩くものではなくドライブするものなのかもしれません……。
さて、なぜ走水でこの楽曲を思い出すのか。歌い出しの歌詞の「太陽が海に架けた光の橋 今ならわたれる 水平線の向こう」というのが、ずっと不思議だなと思っていたんです。以前にも書いたのですが、渡辺真知子は東京湾に夕日が沈む、という、実際にありえない光景を描写することがあります。
まあ歌詞世界が100%現実を引き写していなければならないわけはないんだし……と思って、記事には書きつつそこまで気にしてはいませんでした。いなかったのですが、おそらくそういう言葉が出てくるのであれば心象風景として「東京湾に沈む夕日」がどこかにあるんじゃないかなあ、とも思っていたのです。
走水だって海に日が沈むわけではないのですが、海のほうを向いて日没を楽しむことができます。そういうことだったのかも!
『Welcome to Yokosuka』のことを、ずっとベース(米軍基地)のほうから下ってドライブをする曲なんだと思っていました。でももしかしたら逆なのかもしれません。走水や、これから向かう観音崎のほうからドライブして、どぶ板方面を目指す楽曲だったのかも。本当のことはご本人に伺わなければわかりませんが、曲の楽しみ方が少し変わりました。
当時あった展望台とボードウォーク構想
高台からさらにもう少し高いところを目指します。というのも10,000メートルプロムナードの計画当初、どうやら高台に展望デッキを作る予定があったみたいなんです。
最初のほうで引用した『トランスポート』の記事には、「プロムナード随一の景勝地に展望広場を整備します」と書かれています。地図上で示された場所を見るに、だいたいこのあたり。
展望広場になるはずだったかもしれない場所です。フェンスの向こうには踏み分け道らしきものが見えました。地主さんなどのプライベート展望台になっているのかもしれません。
ちなみに、走水海岸にはもともと10,000メートルプロムナードの事業で砂浜沿いにボードウォークが設けられる予定でした。のちほどご紹介しますが、走水付近はほかにも実施されなかった計画があります。どういう理由で断念されたのかわかりませんが(そして今は今で十分よい感じの道なのですが)、計画がすべて実行されていたらどんな感じのできあがりになっていたのか、ちょっと興味があります。
16号に戻ってきました。車道が上り坂、歩道が下り坂になるところで歩道を選び、旗山崎公園へ向かいます!
走水砲台跡
旗山崎公園
どどーんとだだっぴろい広場がある旗山崎公園。白飛びしてしまっていますが、左手には海が見えます。そして奥のこんもりとした小山が……
走水砲台跡です。もともとは年に数回しか公開されていなかったと思うのですが、最近は土日祝日に立ち入ることができるんですね。知らなかったな……!
旗山崎公園には走水港の敷地に入れる出入り口があります。
ここでちょこっと前を思い出していただきたいのですが、10,000メートルプロムナードの走水エリアには海沿いにボードウォークが設けられる予定でした。これまで16号沿いを歩いてきましたが、そのかわりに走水水源地あたりからずっと海岸を歩き、旗山崎公園に入ってまた海沿いに出て行くというルートになっていたようです。
と、いうことは走水港のあたりではどうなっていたのでしょう?
当時あった展望ブリッジ構想
な、なんと写真の左手から右手にかけて、港の入口に展望ブリッジを作って海を渡らせるつもりだったみたいなんです! それは見てみたかったな!
もともと走水から房総にかけては、国道16号線の海上区間が建設される予定だったんですよね。現在の東京湾アクアラインに匹敵するような交通網ができていたら人通りも現在とはまったく違っていたでしょう。そのような前提に立ったボードウォーク構想だったのだと思います。
堀口大學・團伊玖磨『横須賀市歌』
ちなみに堀口大學が作詞した『横須賀市歌』の5番にも16号線の海上区間が取り上げられています。「黒潮に わたすかけ橋 天そそる 横断道路 ひと跨ぎ 東京湾も……」という歌詞がそれです。
実際に走水港に立ってあり得た姿を想像すると、「未来こそ 横須賀の夢」と曲の最後に書き上げた堀口の詩情がなんとなく伝わってくるように思います。すでに海上区間計画自体が忘れ去られている現代となってはよくわからない歌詞になってしまっているのが残念です。
ちなみに『横須賀市歌』、サブスクリプションサービスに入っていないのです。ですが上にリンクした横須賀市のウェブサイトから音源がダウンロードできますので、ぜひお聞きになってください。
観音崎へ
走水港を去ってしばらく歩くと「走水」交差点があります。ここに立っている看板をご覧ください!
「一般国道16号」が左の矢印方向に含まれていますよね。ちょうどこの看板あたりが、現在の国道16号線の終点なんです。この先に続く道は県道に変わります。本来は海上区間へと伸びていく環状道路になる予定だったわけですが、その計画が実質的になくなっているために三浦半島と房総半島にそれぞれ終点がある道路になりました。
と、いうわけでこの先は16号ではありません。先ほどの『Welcome to Yokosuka』の歌詞が観音崎・走水発だとすると、「このまま16号 海沿いに走っていって」と歌ったタイミングではもしかしたらまだ県道の上にいたのかもしれません。でモすぐに道は16号に変わり、とたんに走水港が見える……。なので情景としては無理がないように思います。
さて、県道沿いのラビスタ観音崎テラス(旧観音崎京急ホテル)の脇からはボードウォークが伸びています。案内板に従って進みましょう。「うみかぜの路」という表示の隣には、うっすらと消えかけた文字で「海と緑の10000メートルプロムナード」と書かれてありますね。
ボードウォークの入口から西のほうを眺めたところ。このあたりまで到達するように走水のボードウォークと展望ブリッジを整備する予定だったということですね。もし実現していたら、荒崎公園にも似た景勝地になっていたかもしれません。
ここで再び冒頭のほうの記憶を思い起こしていただきたいのですが、10,000メートルプロムナードのうち馬堀海岸から先は「海とあそぶ道」と名付けられています。ずっと海沿いにボードウォークを設ける予定だったのも、海と遊ぶためでしょう。そう考えると、ようやく海岸線に0ミリの距離まで近づけるようになりました!
ボードウォークはきれいに整備されていて、たまに軽くぐらぐらするところもありつつも、安全性には問題なく安心して歩けます。お散歩している方、夕焼けを眺める方、思い思いに過ごす地元のみなさんとときたますれ違います。
しばらく歩くと横須賀美術館が見えてきました。
横須賀美術館への近道! と思ったら封鎖されてしまっていた階段。上った先に横断歩道がないせいかな……。
気を取り直して再びてくてく。ボードウォークの終点までやってきました。
観音崎です!
渡辺真知子『かもめが翔んだ日』
ここで最後に一曲。満を持しまして渡辺真知子の代表曲、『かもめが翔んだ日』(1978年)です。
この楽曲はアーティストご本人の地元である「堀ノ内」駅の駅メロになっています。しかし渡辺真知子はたびたび「『かもめが翔んだ日』やその他の楽曲で思い浮かべる横須賀の海は観音崎」であるという旨を話っているんです。なのでご紹介するとしたらここでしかないだろうと以前から思っていました。機会ができたぞ!
ちなみに観音崎公園には最近「ビーチパークリビング」というBBQ施設ができたのですが、現在2024年3月末まで長期休業中とのこと。
そんなわけでいまはちょっとさびしい雰囲気の観音崎ですが、公園内を散策したり、たたら浜のほうまで足を伸ばしたりと楽しみ方はほかにもあります!
と、言いつつ今日はすでに16時。14時半ごろ歩きはじめて1時間半経ってしまいました。少々疲れたので、浜辺のすぐ脇にある「観音崎」停留所からバスに乗って帰ろうと思います。バスの行き先は複数ありますが、今回は「馬堀海岸」駅行きに乗りました。
記事4回にわけて10,000メートルプロムナードを歩ききりました! 毎回まあまあの距離がありましたし、一度に最初から最後まで歩こうとはなかなか思えない距離でした。でも、同じ海沿いといってもエリアによって雰囲気が全然違うことを実感できたのはとてもおもしろかったです。
本日のプレイリスト
Apple Musicで個人的に作って公開している「横須賀 ヨコスカ YOKOSUKA」という名前のプレイリストから数曲を組んでご紹介しました。『横須賀市歌』はサブスクリプションサービスに入っていませんので、記事中でご紹介した横須賀市の音源をお聞きください。
Apple Musicは有料サービスです。Spotifyは会員登録のみで無料利用ができますが、プレイリストやアルバムはシャッフル再生しかできません(曲順での再生は有料会員のみ可能です)。Youtube Musicはスマートフォンではアプリとログインが必要ですが、ブラウザ版ではログインなしで利用することができます。YouTubeと同様、広告が入りますが無料で利用できます。
Apple Music
Spotify
YouTube Music
YouTube Musicには『横須賀DRIVE』が入っていません。また、矢沢永吉と渡辺真知子の楽曲はYouTube動画を使用しています。
「横須賀プレイリスト」について
「横須賀 ヨコスカ YOKOSUKA」にはタイトルや歌詞に「横須賀」もしくは横須賀市内の地名が明記されているもの、またアーティスト本人等が横須賀についての楽曲であることを明言しているものを集めて、基本的にリリース順で並べています。『横須賀ストーリー』のようにたくさんのアーティストがカバーしているものは、基本的にオリジナルのもののみ入れています。
赤星友香
横須賀ぷらから通信主宰。クロシェター / ライター。普段はpiggiesagogoという屋号で編み図を作ったり、別館1617という自主レーベルで本を作ったりしています。横須賀育ちの北関東在住で、わりとつねに三浦半島に行く口実を探しています。