横須賀ぷらから通信は「【プラ】ス1時間ここ【から】歩く」をテーマにしたお散歩メディアです。

【金沢文庫】タイムスリップする道路、国道16号線をひたすら南下する

これまでApple Musicのプレイリスト「横須賀 ヨコスカ YOKOSUKA」から楽曲を再編成して歩く記事をいくつかお届けしてきました。

ご紹介したいと思った楽曲はかなり網羅できた一方で、ひとネタあるんだけど散歩コースとしては(もしくはプレイリストとしては)まとまらない程度のもの、というアイデアもまだまだ残っています。今回はそういった「ぷらからとして上手に扱うのが難しい」ネタをひとつお届けしようと思います。エリアは横浜市金沢区から横須賀市田浦町までの国道16号線です。

ぷらからは「【プラ】ス1時間、ここ【から】歩く」がテーマです。しかし今回歩いた「金沢文庫」駅から「JR田浦」駅までは約7km。たとえ寄り道をしなかったとしても歩いたら1時間半ほどかかります。そして道も国道沿い。しかもプレイリストの楽曲数は4曲とかなり少ない。お散歩コースとしては果たしておもしろいのかどうか疑問が残ります。

という感じでいろいろと懸念点が残る滑り出しですが、とりあえず行ってみましょう。歩いてみて初めてわかることだってたくさんあるはず!

ちなみにこれまでも国道16号線を部分的に歩いています。これまで歩いたエリアとどう違うのかな? というのも併せてお楽しみください。

今回歩いたルート

国道16号線を南下する - Google My Maps
国道16号線を南下する

金沢文庫駅

「金沢文庫」駅東口を出て、国道16号線方面へと向かいます。

国道16号線に出てきました。この景色には見覚えがあります! 以前樽瀬川さんの「金沢八景」めぐりで訪れていますね。江戸時代はこのあたりまで海だったのだろうけれど……という話をしました。

今回はこの旧水部、現国道16号線を下っていきたいと思います。

小田和正『16号を下って』

金沢文庫出身のミュージシャンといえば小田和正。1990年にリリースされた『16号を下って』という楽曲は、小田和正のご実家からすぐの場所にある君ヶ崎交差点で再生してみましょう。

案内標識には「観音崎」の文字が見えます

三浦半島にお住まいの皆さんには今さらお話しするまでもない情報ですが、小田和正のご実家「小田薬局」はこの交差点を右に曲がったところにあります。「若すぎる恋」の時代、少年時代と言ってもいいかもしれません。『16号を下って』はそのころの思い出なんだととらえると、16号を下って「僕等のあの海へ」向かうリアリティがなんとなく伝わってくるでしょうか。

出典:地理院地図

「君ヶ崎」の名が示す通り、このあたりは江戸時代までは海でした。干拓や埋め立てなどを経て海岸線から遠ざかってしまった現代では、この場所で海へのあこがれが歌われるんですね。

「私は妖精です」

さて、そのままぼんやりと16号沿いを歩いていました。ふと左手を見上げると、なんかいる……!

ユニオンセンターというビルのキャラクターのようです

あまりにもたくさんいたのでスライドショーでご案内。以下をどうぞ。

耳としっぽから察するにクマのような生き物と思われますが、なぜ甲羅をしょっているのか。お友達と思われる小さな亀はどのように思っているのでしょう。あ、もしかしてここの町名が「泥亀」だから亀なのかな……?

なぞの生命体について思いをはせていたら、ボウリング場の前まで歩いていました。ここのボウリング場、なぜか妙にアメリカンなにおいを感じませんか? それも現代っぽいのではない、ちょっと古びた、田舎町にありそうな。

矢沢永吉『流星』

というわけで、ここで流したいのは1992年にリリースされた矢沢永吉の『流星』です。「本牧から三崎まで」バイクで飛ばすのはもちろん16号。

この楽曲では「バーガーイン」で3ヶ月前に出会った「可愛い娘」ともう別れたんだ、ということが語られます。出会いから別れまでが3ヶ月、それだけでこの曲の主人公がとても若いのだということが察せられますね。へたしたらまだ10代かもしれないなあ。

それはそうと、「バーガーイン」という言い方もちょっと片田舎のアメリカちっくですよね。どういうことなんだろうな、と考えるに、やはり進駐軍の影響が大きいのではないかと思ってしまいます。本牧には「BAYSIDE COURTS」という名前の米軍住宅があり、16号は本牧と横須賀の基地を結ぶ幹線道路でした。

少女時代を横須賀で過ごした写真家石内都は『Club & Courts Yokosuka Yokohama』という写真集を出版しています。石内のお母さんは本牧〜横須賀間を走る米軍お抱えの運転手をしていたそうです。

現代ではほとんど意識されないけれど、その成り立ちや歴史に打ち消せないほどの影響を与えている米軍基地。その残滓みたいなものを感じた、ような気がします。

旧水部を流れる宮川を渡り、

瀬戸神社を右手に見るあたり。「金沢八景」駅と平潟湾が近づいてきました!

金沢八景駅

「瀬戸神社前」交差点で歩道橋に上ると建物の隙間から平潟湾が見えます。

あちこちから小さい川が合流しています。平潟湾もよく知らないと大きな川かな? と思ってしまう形をしていますよね。

平潟湾の目の前には金沢八景駅が。高架になって伸びているのはシーサイドラインです。このシーサイドラインに沿って、ちょっとだけ寄り道をしてみましょう。

平潟湾沿いに高架が続きます

ASIAN KUNG-FU GENERATION『追浜フィーリンダウン』

平潟湾を歩きながら一曲。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『追浜フィーリンダウン』(2022年)です。「追浜」なら追浜駅あたりの曲じゃないの……? という印象なのですが、この楽曲には「運河」が出てきます。運河があるのって横浜と横須賀の境目である、ちょうどこのあたりなんですよね。

そんなことを言っていたら旅館「追浜園」が見えました。文化圏としては金沢区と追浜のどっちとも取れるこのエリア。

向こうのほうにぽこっと見える野島。あのあたりが運河になっています。

適当なところで柳町の住宅地を突っ切り、侍従川沿いに出ます。対岸に見えるのは……

関東学院大学です。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONことアジカンは関東学院大学出身のバンド。『追浜フィーリンダウン』の歌詞を読むと、なんとなくこれは鬱屈した大学時代のことなんじゃないかな……と思ってしまいます。だとすると前の2曲と同じく、やっぱり若い時代の感情が歌われていますね。

侍従川が流れ込む平潟湾
野島方面

運河といいつつここは実質海だといっていいと思うのですが、歌詞には「明日こそ 海へ行こう」とあります。『16号を下って』、海に行く。海沿いだけど、求めてるのはこの海じゃない、みたいな。

ちなみに『追浜フィーリンダウン』は「ヘルプ!」という歌詞とともにいきなり歌詞とメロディがThe Beatlesの『HELP!』に切り替わります。そのあたりも聞いていておもしろい楽曲。

野島公園室ノ木地区

16号線に戻るべく、侍従川の関東学院側を歩いて西に向かいます。と、左手になにか気になる岩が見えました。

見に行ってみましょう

ここは野島公園の室ノ木地区。野島とは直接つながっていませんが同じ公園として管理されています。

明らかに人の手が加わっています。近くで見るとくさびを打って切り出したような痕跡が見えました。石切り場だったのかな……?

裏に回ると展望台になっていました!

よい見晴らし。

帰宅してから調べたところ、この岩は通称「ジープ山」というそう。名前は進駐軍がこのあたりでジープを乗り回していたことに由来するそうです。またしても進駐軍だ!

そして、明らかに人の手が入っているな、と思ったところは中世のやぐらの痕跡だとか。やぐらを簡単に説明すると、中世のお墓です。まあまあ身分のあった人たちのお墓だと考えられています。このあたりだと鎌倉幕府と関係のあった武士の一族などが葬られていたのでしょうか。

連載 かねさわ地名抄 第31回「室ノ木」 文・NPO法人 横濱金澤シティガイド協会 | 金沢区・磯子区 | タウンニュース
現在の瀬ケ崎・室ノ木は、江戸時代までは逗子方面から野島に向かって続く丘陵が海に突き出した半島(岬)で、半島の先の地域が「室ノ木」でした。明治期以降の埋め立てと軍用地化に...
ページが見つかりませんでした | 横浜金沢観光協会
神奈川県横浜市金沢区観光案内(Yokohama Kanazawa Tourism Association)

歩くといろんなものに気づくものだなあと思いながら16号に戻ってきました。西友……じゃなかったサンビーチ追浜が見えてくればもう追浜駅はすぐです!

追浜駅

追浜駅周辺の16号沿いはザ・商店街の趣を残しています。だいぶお店は減ってしまいましたが……。実は国道16号線を俯瞰してみると、沿道に商店街が広がっているのはちょっと珍しいんだそうです。

ほかの地域ではバイパス道路的に設計されているのと比較すると、古くからの道をそのまま利用するようなかたちで発展してきたのがこのエリアの16号。そのため「通り抜けるための道路」でありつつも「生活のための道路」にもなっている、というのは『国道16号線スタディーズ』で読みました。

金沢区の16号は旧水部を通っていましたが、追浜から先はもともと陸地だった場所に続いています。ぷらからでも何度か取り上げている「うらが道」がそのまま16号に発展したと言っても過言ではないわけです。

『浦賀道』を歩く

駅前の「追浜ショッピングセンター」。カットしたアクリル板の下にもう1枚アクリル板を重ねるタイプの看板、でこぼこ感とか断面の感じとかが好みです。

「カットした木板にもう一枚板を重ねるのはどう?」

とか言っていたらなにかが現れました。カットした板を重ねて作られた「サンロード追浜商店会」のサインです。しかもめっちゃたくさんいる!

ふたたびスライドショーでご覧ください。ひとつひとつがそれぞれアーケードの柱に打ち付けられていました。個人的にはヒョウがお気に入りです。

商店街らしさを楽しみつつ歩きましたが、次第にお店が減っていきます。

擁壁に刻まれた階段。上にはおそらく民家があるものと思われます
いい顔のロバ
これまたすんごい擁壁。湘南鷹取への入口です

追浜の町が終わりつつあるころ、見えてくるのがこちら。トンネルです!

このトンネルの上に「がらめきの切通し」があります

クレイジーケンバンド『タイムトンネル』

ここで本記事最後の曲をプレイしましょう。おなじみクレイジーケンバンドの『タイムトンネル』(2016年)です。もともとこの楽曲はTUBEへの提供曲として作られたもので、2015年にリリースされたTUBEのアルバム『Your TUBE + My TUBE』に収録されています。

「横須賀 ヨコスカ YOKOSUKA」プレイリストの基本方針はオリジナルの楽曲を入れること、なのですが、『タイムトンネル』に限ってはクレイジーケンバンドのバージョンが好きなんです。ですのでこちらをご紹介するのをお許しください!

この楽曲の主人公はたぶん壮年期。ですが思い出すのはやっぱり若いころのことなんです。忙しい合間を縫って16号をドライブすると、トンネルを通りすぎるたびに次々とあの恋の思い出が浮かび上がってくる。タイトルの「タイムトンネル」ってそういうことか! と納得する良曲です。

真夜中じゃなくてもトンネルは「オレンジ」。

もちろんTUBEのバージョンもとてもよいので、ぜひこちらもお聞きください。

若い恋が行き着く先は、横須賀の海。さて、16号もそろそろ海っぽくなってきたでしょうか。

京急田浦駅

「京急田浦」駅の写真を撮りわすれてしまったので、その先にある「船越一丁目」交差点を。海っぽくなってきたかどうかは議論の余地がありますが(海はだいぶ近くなってはきました)、山と東芝ライテックに自衛隊でだいぶ横須賀っぽくはなってきました。

田浦梅の里の入口

そろそろ梅も満開。

次のトンネルの手前にはジャズの記事でご紹介した田浦教会があります(ちょうど外壁工事中でした)。

JR田浦駅周辺区間は16号が上下線で2本に別れます。そして歌詞の通りトンネルがいくつも続きます。

『タイムトンネル』の歌詞に従うならせめて『タイガー & ドラゴン』の歌詞の通り横須賀港まで、ほかの楽曲のことも考えるならもっと南、砂浜のある海岸まで足を伸ばしたいところ。

でも今回のプレイリストを最後まで再生してしまったので、今日はこのあたりで散策をやめておきましょう。

JR田浦駅

16号と海の間を走るJR横須賀線。田浦駅のおもしろいところは、駅名の看板が駅舎ではなく電柱についていることです。

ロータリー全景

このことを横須賀出身ではない人に話しましたら、「なんか銀河鉄道が来そうだね」と言っていました。たしかに!

ここから横須賀線に乗って横須賀駅方面へ移動したいと思います。南へ向かうたびに若いころのほろ苦さがよみがえってくる道路、国道16号線。歩くとおもしろかったのかどうか、は距離の長さに打ち消されてしまった気もしますが(寄り道とお昼ご飯を入れて、結局3時間ほど歩いてしまいました)、楽曲ひとつひとつをじっくり味わう時間になりました。

最後におまけ。『流星』の主人公は「本牧から三崎まで」バイクを飛ばしますが、三浦半島の「岬」が舞台になった楽曲といえばこれです。若い恋の終わりとしてもちょうどいい〆かもしれません。

本日のプレイリスト

Apple Musicは有料サービスです。Spotifyは会員登録のみで無料利用ができますが、プレイリストやアルバムはシャッフル再生しかできません(曲順での再生は有料会員のみ可能です)。普段はYoutube Musicでもプレイリストを作っているのですが、今回の楽曲は見つからないものも多かったので作成しませんでした。

Apple Music

Spotify

赤星友香

横須賀ぷらから通信主宰。クロシェター / ライター。普段はpiggiesagogoという屋号で編み図を作ったり、別館1617という自主レーベルで本を作ったりしています。横須賀育ちの北関東在住で、わりとつねに三浦半島に行く口実を探しています。

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